『CPIとGDPデフレータから読む“本当の物価”』
CPIとGDPデフレータの決定的な違い
消費者物価指数(CPI)とGDPデフレータは、どちらも「物価」を示す指標だが、その中身は大きく異なる。CPIは、私たち消費者が感じる物価そのものだ。100円の商品が110円になれば、それは10%の上昇として正確に反映される。
一方、GDPデフレータは、「名目GDPから物価変動の影響を取り除き、実質GDPを算出するための指数」である。そのため、輸入物価の上昇分は控除される。輸入はGDPのマイナス項目であるため、輸入品の値上がりはGDPデフレータを押し下げる方向に働く。ここに両者の性質の違いがある。
物価上昇の“原因”を見る指標
この違いは、いま何が日本の物価を押し上げているのかを知る上で非常に重要だ。
輸入物価が上がればCPIは上昇するが、GDPデフレータはむしろ引き下げられる。つまり、両者の差を見れば、物価上昇の要因が「海外からのコスト増」なのか、「国内需要の強まり」なのかを見極められる。
さらに、輸入デフレータとGDPデフレータの差を見ることで、国内経済のどの部分に圧力がかかっているのかが、後から明確に分かる。
2022年は“完全なコストプッシュ型”
データを見ると、日本のCPIが急騰したのは2022年である。この年、輸入物価指数が急上昇し、原材料価格の高騰と円安が重なって物価は一気に跳ね上がった。典型的なコストプッシュ型インフレであり、国内需要が強まった結果ではなかった。
ただ、輸入物価の上昇局面は2022年で終わっている。2023年以降、輸入コストは高止まりこそすれ、上昇はしていない。輸入デフレータもゼロ付近で推移し、物価を押し上げる要因にはなっていない。
それでもGDPデフレータは上昇した
興味深いのはここからだ。輸入物価が落ち着いた2023年以降、GDPデフレータがプラスへ転じ、日本では見たことのない水準にまで上昇している。
これは、物価上昇の主因が「輸入」から「国内」へと移ったことを意味する。すなわち、サプライロスによる供給制約が生じ、需要と供給のバランスが崩れる“インフレギャップ”が発生したのである。
2022年のように外部要因だけでは説明できない。国内の供給力が落ち込み、需給が逼迫することで、基礎的な物価が押し上げられた。GDPデフレータと輸入デフレータの差が拡大したことが、その明確な証拠だ。
2023年、日本は構造的な“サプライロス”に入った
もし2023年も、海外要因だけで物価が動いていたのなら、輸入物価が下がった時点でCPIはマイナスへ沈んでいたはずだ。しかし、現実にはそうはならなかった。
むしろ消費者物価もGDPデフレータも共に高止まり、国内インフレが持続した。これは日本の供給能力が低下し、経済の基礎体力が失われた結果である。
データははっきり示している。物価の転機は2023年に訪れた。輸入由来のインフレから、国内要因によるインフレへと移行した年であり、ここに現在の物価上昇の本質がある。
