日銀の国債買い取りがデフレ脱却に失敗した理由とは
多くの人が気になる「日本銀行が国債を大量に買っているけど、それって意味あるの?」という疑問。実は、日本銀行が何百兆円もかけて行った「国債買い取り政策」は、期待されたデフレ脱却に失敗していたのです。今回はその理由と背景をわかりやすく解説します。
「国の借金=問題」は本当か?元・大蔵次官の寄稿が話題に
2023年5月号の『文藝春秋』に、元大蔵事務次官・齋藤次郎氏が「安倍晋三回顧録に反論する」という寄稿を寄せました。
齋藤氏は、「赤字国債は絶対出すな」「財政の黒字化は当然」と大蔵省で叩き込まれたと語ります。けれど、この主張には根本的な問題があります。
政府が黒字になるということは、裏を返せば国民が赤字になるということ。つまり、財政の黒字化を進めるというのは、「国民からお金を取り上げる」ことでもあるのです。
国債の発行=「借金」ではない?
政府の債務残高は1970年と比べて180倍以上、さらに明治時代(1872年)と比べるとなんと4,000万倍にまで膨らんでいます。
しかし、これは本当に「借金」なのでしょうか?
答えはノー。実際には、政府の債務とは、国民への「貨幣供給の記録」に過ぎません。国債の発行によって国民にお金が供給される。つまり、政府の赤字は国民の黒字です。
日銀が国債を買い取れば、返済しなくていい?
日本政府は、自らの「子会社」である日本銀行に国債を買い取らせることで、利払いや返済の負担から事実上解放されています。これは、連結決算という仕組みの中で、親会社(政府)と子会社(日銀)の内部取引が相殺されるためです。
実際、現在では日本国債の約半分を日本銀行が保有しています。しかも、日銀が得た利息は「国庫納付金」として政府に戻され、税外収入になります。
つまり、日本政府は国債を発行し、日銀がそれを買い取ることで、実質的に「返済不要」のお金を生み出しているのです。
それなのに、なぜデフレ脱却できなかったのか?
2013年に発足した黒田日銀の「リフレ政策」では、日銀が市中銀行から大量の国債を買い取りました。その金額は、なんと470兆円規模。
しかし、日本はその後も長らくデフレから抜け出せませんでした。なぜでしょうか?
最大の理由は、日銀が買い取ったのが「既に発行済みの国債(既発債)」だったからです。既発債の購入は、新たな支出(=需要)を生みません。すでに市場で完了している取引だからです。
デフレ脱却に必要なのは「新たな需要」
デフレとは、単なる物価下落ではなく、総需要(GDP)の不足です。つまり、消費・投資・輸出入などを含めた「お金の使われ方」が足りていない状態です。
本当にデフレを脱却したいなら、政府が新しく国債を発行し、それを使って支出(例えば給付金や公共投資)をすることが効果的。その支出が新たな需要を生み出し、経済を活性化させるのです。
一方で、日銀による既発債の買い取りは、資産の入れ替えにすぎず、需要を生むことにはつながりません。
財政法第5条と「日銀は国債を直接買ってはいけない」問題
財政法第5条には、「政府は日銀に直接国債を引き受けさせてはならない」とあります。これは確かに法律で禁じられています。
しかし、現行の仕組みでは、日銀が「市中銀行から」国債を買い取るのは合法。つまり、「直接引き受け」は禁止でも、「市場経由の買い取り」はOK。現実には、これを活用して大量の国債が日銀に保有されているのです。
まとめ:デフレ脱却には「誰かがお金を使うこと」が必要
日銀が大量に国債を買い取っても、経済は動きません。なぜなら、総需要は誰かが「実際にお金を使うこと」でしか生まれないからです。
これからの日本に必要なのは、見かけ上の債務削減ではなく、国民の所得を増やし、実際に使えるお金を増やすこと。言い換えれば、「政府が積極的に支出すること」なのです。
この情報が皆さんのお役に立てば幸いです。
