腕橈骨筋による橈骨神経絞扼とは?
橈骨神経(RN)の絞扼ポイントとしては橈骨溝や回外筋がよく知られています。しかし稀に、腕橈骨筋(Brachioradialis, BM)による圧迫が原因となる症例も報告されています。
症状は他の高位橈骨神経絞扼と同様に、手関節や手指の伸展障害が主体で、時に感覚障害が乏しいケースもあります。
報告例1:上腕二頭筋とBMの間での圧迫
Leeらは、手作業労働者における症例を報告しています。
- 臨床症状:手関節・手指伸展不能、疼痛はなし
- 術中所見:当初は上腕三頭筋による圧迫と考えられたが、実際にはRNが上腕筋(brachialis)とBMの間で圧迫されていた
- 診断:術後にMRIを再評価すると、神経の扁平化が確認された
この報告は、MRIが有用な診断ツールであること、そして「通常とは異なる絞扼ポイントを念頭に置く必要性」を示しています。
報告例2:BM単独での圧迫
Cherchelらは、BM単独による絞扼例を報告しました。
- 圧迫はBMの腱膜組織に覆われた部分で発生
- BMの上腕骨起始部で過剰な圧迫力が働き、RNが挟まれた
- 症例は再び肉体労働者であり、反復的な使用が要因と推測された
報告例3:副次的な筋頭による圧迫
Mehtaらは、解剖学的バリエーションに伴うRN圧迫例を報告しました。
- 異常筋:三角筋遠位から起始し、BMと合流する付加的な筋頭
- BM本体とこの付加的な筋が上腕骨外側上顆で癒合
- RNはこの間をタイトに通過し、強い労作時に圧迫を受ける可能性が高かった
このように、副次的なBMの筋頭や異常筋の存在も、RN絞扼のリスクとなり得ます。
臨床での示唆
- MRIの活用
圧迫部位の同定にはMRIが有効。特に扁平化や低信号域の確認が重要。 - 解剖学的バリエーションを考慮する
標準的な絞扼部位(橈骨溝・回外筋)以外もチェックする。 - 労働者やアスリートでの注意
繰り返しの前腕使用や筋肥大がリスク因子となる。
まとめ
腕橈骨筋による橈骨神経絞扼は頻度こそ低いものの、見逃されやすい病態です。
- 上腕筋とBMの間
- BM単独の起始部
- 副次的な筋頭や異常筋
これらが潜在的な圧迫部位となります。臨床で橈骨神経麻痺を疑った際は、通常の部位だけでなく、こうした稀な部位も意識して評価することが重要です。