「すべての試練に備えるために、この三つの考えを手元に置いておけ。」
これは、ストア派の哲学者 エピクテトスが『提要』の中で引用した三つの格言です。
クレアンテス、エウリピデス、ソクラテス――古代の賢人たちが残した言葉は、時代を超えて今を生きる私たちにも響く知恵を与えてくれます。
三賢人の格言
まずは三つの言葉を見てみましょう。
- クレアンテス
「導きたまえ、神よ、運命の女神よ。
その昔、私に定められたあの目的地へ。
私はためらわず、その道に従います。
たとえ意志が弱くとも、やり通します。」
- エウリピデス
「必然をよく受け入れる者は、賢者にして、
神のことを熟知した者と見なされる。」
- ソクラテス(プラトン『クリトン』『弁明』より)
「それが神の御心なら、そうしてくれ。
彼らは私を殺すことはできようが、私を損なうことはできない。」
これらはどれも、困難や運命を受け入れる姿勢を説いています。
「受け入れること」の知恵
三人の言葉に共通しているのは、「自分を超えた存在にゆだねる」という考え方です。
- クレアンテスは「運命の女神に導かれる」と歌いました。
- エウリピデスは「必然を受け入れることが賢さだ」と語りました。
- ソクラテスは「肉体を損なわれても、魂は損なわれない」と示しました。
これは単なる諦めではなく、人生の出来事を「避けられない流れ」と認める姿勢です。
受け入れることで、余計な抵抗や苦悩から解放されるのです。
神を信じなくても見出せる「大きな秩序」
「神」や「運命」という言葉に抵抗を覚える人もいるかもしれません。
しかし、エピクテトスは「たとえ神を信じなくても、宇宙の法則や生命の循環に安らぎを見いだせる」と言います。
- 季節は巡り、自然は変化し続ける。
- 命は生まれ、やがて終わり、また新たな命が生まれる。
- 苦しみも喜びも、すべては大きな流れの一部。
私たちの身に起こる出来事もまた、この大きな秩序の一部であり、偶然や気まぐれに見えても「起こるべくして起こった」と考えられるのです。
受け入れる力がもたらすもの
「受け入れる」という態度は、私たちに次のような力を与えてくれます。
- 抵抗から解放される
現実に逆らうことで生まれるストレスが減り、心が落ち着きます。
- 柔軟に対応できる
「なぜ自分だけが」と嘆く代わりに、「では次に何をすべきか」と行動に移せます。
- 本当の強さが育つ
状況を受け入れつつも、魂や意志までは揺るがせないという姿勢が、自分への信頼につながります。
日常でできる練習法
三賢人の格言は抽象的に聞こえるかもしれませんが、日常で実践できる方法があります。
- 予期せぬ出来事に「これも必要だった」と言ってみる
すぐに受け入れられなくても、言葉にすることで心の抵抗が和らぎます。
- 小さな試練を受け入れる練習をする
電車の遅延や天気の変化に腹を立てず、「これも自然の流れ」と考えてみる。
- 自分を損なわないものを見極める
ソクラテスが言ったように、外的な出来事は魂までは傷つけられません。「本当に大事なものは何か」と問い直すことが大切です。
まとめ
エピクテトスが引用した三賢人の格言は、すべて「受け入れる力」に通じています。
- クレアンテスは、運命の導きを信じる姿勢を。
- エウリピデスは、必然を受け入れることの賢さを。
- ソクラテスは、外的なものでは魂を損なえないという強さを。
どれも時代を超えて私たちに響く知恵です。
人生で起こることに抵抗するのではなく、より大きな流れにゆだねる。
そのとき、私たちは不安や恐れから解放され、心の平和を得られるのです。
今日一日、どんな出来事も「自分のために用意されたもの」と考えてみましょう。
そうすれば、試練すらも人生の糧に変わっていくはずです。
ABOUT ME

理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。