上腕三頭筋による橈骨神経絞扼とは?
橈骨神経(RN)は上腕を下行し、橈骨溝で上腕三頭筋外側頭と長頭の近傍を通過します。この経路上で、上腕三頭筋による圧迫が起こることは稀ながら報告されています。
Manskeは、上腕三頭筋外側頭により不可逆的なRN麻痺をきたした症例を報告しています 。
圧迫の原因と病態
- 薬剤注射による筋線維化
鎮痛薬を繰り返し注射した部位で筋が線維化し、線維化した筋がRNを圧迫。筋萎縮と可動域制限を伴うことがある 。 - 異常筋束の存在
Prabhuらは、外側頭と長頭を連結する異常な筋束が橈骨溝を跨ぎ、RNと橈骨動脈を覆う症例を報告しました。これも圧迫部位となり得ます 。 - 線維性アーチ
Lotemらは、筋肉質の患者において、強い伸展運動後に一過性のRN障害を呈した一連の症例を報告しました。これは外側頭から出る線維性アーチが橈骨溝を跨ぎ、RNを絞扼するためと考えられました 。 - 慢性進行例
Nakamichi & Tachibanaの報告では、症状出現までに数年を要した例もあります。慢性例では神経の線維化が進み、手術しても完全回復が得られないことがあるとされます 。
解剖学的背景
Jenkinsらによる解剖研究では、外側頭からの線維性または筋性バンドが75%の上肢で存在していました 。
特に、肘伸展+前腕回外位ではこのバンドが強く緊張し、RNへの圧迫リスクが増すと報告されています。
つまり、三頭筋によるRN圧迫は「解剖学的に珍しい」ものではなく、臨床症状に直結するかどうかが個体差に依存する可能性が高いと考えられます。
臨床での示唆
- 上腕三頭筋によるRN圧迫は頻度は低いが、慢性の腕痛やRN麻痺の鑑別に含める必要がある。
- 特に、骨折後・外傷歴なしでの進行性の症状、または原因不明の慢性麻痺では考慮すべき。
- 手術でのリリースが有効な場合もあるが、線維化が進んだ症例では予後不良もあり得る。
まとめ
- 上腕三頭筋は稀ながら橈骨神経を圧迫しうる。
- 要因は筋線維化、異常筋束、線維性アーチなど多岐にわたる。
- 慢性例では神経変性が進行し、手術後も完全回復が難しいことがある。
- 他の原因が除外された場合の鑑別診断の一つとして念頭に置くことが重要。