衰えを知らぬ健康 ― エピクテトスが教える本当の強さ
古代ギリシアの哲学者エピクテトスは、『語録』の中で次のように語っています。
「いいかね、君は、健康な人がするような生き方を学べばよいのだ……自信に満ちた生き方である。どんな自信か? ただひとつ、抱く価値のあるもの、信頼がおけて、妨げられず、奪われえないもの――君自身の理性によって選択をする力である。」
これは、真の「健康」とは身体の状態だけではなく、「理性によって選択する力」であると説いた言葉です。
失われる健康と失われない健康
私たちはふだん「健康」といえば体のことを思い浮かべます。
バランスの取れた食事、運動、睡眠……これらはもちろん大切です。
しかし身体的な健康は、どれだけ努力しても限界があります。突然病気を告げられることもあり、老化を完全に止めることは誰にもできません。
一方で、エピクテトスが指摘する「理性による選択の力」は違います。
- 自分の行動を選ぶ力
- 自分の考えを整える力
- 自分の態度を決める力
これらは奪われることがなく、衰えることもありません。本人が使い続けるかぎり、生涯にわたって「健康」であり続けるのです。
コントロールできるものとできないもの
ストア派哲学の中心にあるのは、「自分でコントロールできるものだけに集中せよ」という考え方です。
- コントロールできないもの:天候、経済、他人の言動、寿命
- コントロールできるもの:判断、選択、行動、態度
たとえ病気や老化で体が思うように動かなくなっても、最後まで残るのは「どう受け止め、どう選択するか」という理性の力です。
誰にでも備わっている力
エピクテトス自身は奴隷として生まれました。それでも彼は、「理性による選択の力」だけは誰も奪えないと気づきました。
それは身分や職業に関係ありません。
- 哲学者ソクラテスは死刑を前にしても、逃げることなく理性に従った
- キュニコス派のディオゲネスは乏しい生活を選びながらも、自由を貫いた
- クレアンテスは肉体労働を続けながらも、哲学的な生き方を実践した
つまり「理性を使って選ぶ生き方」は、誰にでも可能であり、どんな状況でも実践できるのです。
現代に生きる私たちへのヒント
この思想は、現代の私たちにとっても大きな意味を持ちます。
- 仕事:成果や評価は完全にコントロールできないが、努力や姿勢は自分で選べる
- 人間関係:相手の言動は変えられないが、自分の受け止め方は選べる
- 健康や老化:体の変化は避けられないが、その現実にどう向き合うかは選べる
理性による選択の力は、病や老いにも奪われない「衰えを知らぬ健康」と言えるでしょう。
まとめ ― 真の健康は心にある
エピクテトスの言葉は、健康に対する考え方を大きく変えてくれます。
- 身体の健康は有限であり、誰もが衰えていく
- しかし、理性によって選択する力は永遠に自分のもの
- 誰であっても、この力を使って誠実で自由な生き方ができる
つまり「衰えを知らぬ健康」とは、心の在り方にこそあるのです。
体はやがて老いていきます。しかし理性を手放さないかぎり、人生の最期まで私たちは健康であり続けることができます。
そしてその力は、今この瞬間から誰にでも使えるのです。
