「甘やかしと憎しみが子どもを自己中心的にする理由──アドラー心理学が語る共同体感覚の欠如」
甘やかしも憎しみも「共同体感覚」を奪う
アドラー心理学では、人間の健全な成長に欠かせない要素として 共同体感覚(community feeling) を挙げています。これは「自分は仲間の一員であり、他者に関心を持ち、貢献できる存在だ」という感覚です。
しかし、甘やかされた子どもも、憎まれて育った子どもも、いずれもこの感覚を育むことができません。
- 甘やかされた子ども → 「自分の幸せ」にしか関心を持てなくなる
- 憎まれた子ども → 「仲間がいる」ことを知らず、孤独感を抱えやすい
どちらの道をたどっても、結果として 自己中心的な関心だけが強くなってしまう のです。
甘やかしによる弊害
一見すると「甘やかすこと」は愛情の表現に見えるかもしれません。
しかし、子どもにとって甘やかしは「努力しなくても手に入る」という誤った学びを与えます。
- 欲しいものをすぐに与えられる → 我慢できない
- 親が先回りして手助けする → 自分で工夫する力が育たない
- 他人より優先される → 他者への関心が薄れる
その結果、「自分さえ幸せならいい」という価値観に偏りやすくなり、共同体感覚を育むことが難しくなります。
憎しみによる弊害
一方で、親から否定されたり拒絶されたりして育つと、子どもは「仲間の存在」を感じることができません。
- 「どうせ誰も自分を受け入れてくれない」
- 「人は信じられない」
- 「孤独でいるしかない」
このような考えが根づき、人とのつながりを築く力が弱まります。結果として、社会や家庭に貢献するどころか、自分の殻に閉じこもってしまいやすくなるのです。
これらは「生まれつき」ではない
重要なのは、甘やかしや憎しみからくる問題は 先天的なものではない ということです。
子どもが自己中心的になったり、仲間を信じられなくなったりするのは、 生まれてから数年の経験から学んだこと にすぎません。
つまり、親や周囲の関わり方次第で、修正や改善が可能なのです。
子どもを共同体感覚へ導くためにできること
1. 適度な自立を促す
甘やかさず、子どもに「自分でやる」機会を与えること。
自分の力でできた経験は、「役に立てる」という感覚につながります。
2. 条件づけない愛情を示す
「いい子だから愛する」のではなく、存在そのものを認める。
これによって「仲間として受け入れられている」という安心感が育ちます。
3. 他者への関心を育む環境をつくる
家庭内で役割を持たせたり、地域活動に参加させることで、子どもが「自分は共同体の一員だ」と実感できます。
4. 勇気づけを重視する
失敗を責めるのではなく、「挑戦したこと自体を評価する」。
勇気づけは子どもを他者と健全に関わらせる原動力になります。
親自身が見直すべきこと
子どもが甘やかされているのは、親が「子どもを困らせたくない」という気持ちから。
子どもが憎まれているのは、親が「期待通りに動かない子どもを許せない」から。
どちらも、実は 親自身の課題 であることが多いのです。
アドラー心理学は「課題の分離」を提唱します。子どもの課題と親の課題を切り分け、親自身の感情や期待を押しつけないことが大切です。
まとめ
『教育困難な子どもたち』の言葉を整理すると、こうなります。
- 甘やかされた子 → 「自分の幸せ」だけに関心を持つ
- 憎まれて育った子 → 「仲間の存在」を知らない
- どちらも 共同体感覚を欠き、自己中心的になりやすい
しかし、これは先天的なものではなく、育ちの中で身についたもの。
だからこそ、親や教育者が「共同体の一員として受け入れる経験」を与えれば、修正は可能です。
子どもにとって一番大切なのは、「社会に属している」「仲間に受け入れられている」という安心感。
それを与えられるかどうかが、親や教育者の最初の大きな役割なのです。
