『リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間』レビュー|マニュアルを超えるホスピタリティの秘密
マニュアルを超える「おもてなし」
リッツ・カールトンと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは「一流のサービス」でしょう。
しかし、そのサービスは単なるマニュアルの積み重ねではありません。
本書『リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間』では、リッツ・カールトンが掲げる理念と、それを支える仕組みが詳しく紹介されています。著者は日本支社長として大阪・東京のリッツ・カールトン開業に携わった高野登氏。豊富な実体験から語られるホスピタリティの哲学は、ホテル業界に限らず、あらゆるビジネスに通じるヒントになります。
クレドが育む「心のこもったサービス」
リッツ・カールトンには「クレド(信条)」と呼ばれる理念カードがあります。従業員全員が常に携帯し、日々の判断の拠りどころとしています。
特徴的なのは、クレドが抽象的な言葉でまとめられていること。具体的なマニュアルではなく、「自分ならどう行動すべきか」を考えるきっかけとして機能しているのです。
従業員はお客様を「お仕えする相手」ではなく、同じ紳士・淑女として尊重します。この姿勢が、お客様と心を通わせる「感動体験」につながっています。
サービスを支える7つの基本
リッツ・カールトンの従業員が大切にしている「七つの基本」には、次のような考え方があります。
- 誇りと喜びを持って働く
- お客様の気分や雰囲気を感じ取る
- 自分自身も楽しみながらおもてなしをする
- 仲間やお客様を祝う気持ちを持つ
- 心を温める優しさを忘れない
- 情熱を持ち、周囲を巻き込む
- 権限委譲によって迅速に行動する
特に「権限委譲」はユニークです。従業員は1日2000ドル(約20万円)までの決裁権を持ち、上司の許可なく行動できます。お客様の忘れ物を飛行機で届けるなど、柔軟でスピーディーな対応が可能なのです。
マニュアルの役割は「最低限の保証」
リッツ・カールトンにマニュアルが存在するのは事実です。しかし、それは「質の均一化」と「最低限の保証」のため。
本当に感動を生むのは、マニュアルを超えた「一人ひとりの感性と判断」です。スタッフ同士が情報を共有し、垣根を越えて協力することで、チーム全体としてのサービス力が高まります。
この文化を支える仕組みの一つが「ファーストクラス・カード」。スタッフ同士で助け合った際に贈り合い、その記録は人事評価にも反映されます。互いを認め合い、協力を正当に評価する制度が、職場の風通しを良くしているのです。
人材育成と採用の哲学
リッツ・カールトンが重視するのは、知識や学歴ではなく「人間性」と「価値観」。
採用面接では、パーソナリティや成長意欲を確認し、理念に共感できるかどうかを見極めます。
入社後も2日間のオリエンテーションで仲間に歓迎され、理念を共有するところからスタート。現場では一見地味な作業も任されますが、それがホテル全体の価値を支えていることを理解する教育が徹底されています。
新人のアイデアも歓迎され、朝礼で自由に意見を出し合う文化があることも特徴です。「理念を自分ごととして考える」風土が、従業員一人ひとりのホスピタリティを育んでいます。
ブランドを作るのは「従業員の品格」
リッツ・カールトンは、経済的・社会的に上位5%の顧客をターゲットにしています。
その期待を超えるために重要なのは、従業員一人ひとりの品格です。
ブランドを形作るのは広告や建物ではなく、日々お客様に接するスタッフの態度や姿勢。だからこそ「人格重視の採用」と「理念に基づいた行動」が徹底されているのです。
まとめ
『リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間』が教えてくれるのは――
- サービスの本質は「マニュアルを超える心のこもったおもてなし」
- 従業員に権限を委ね、裁量を持たせることが感動を生む
- 仲間同士の助け合いを評価する仕組みが文化を支える
- 採用では「スキル」より「人間性」と「価値観」を重視する
- ブランドを築くのは「従業員の品格」そのもの
この考え方はホテル業界に限らず、病院、学校、一般企業のマネジメントにも応用できます。
サービスや接客に携わる人だけでなく、「人を大切にする組織づくり」を目指すすべてのリーダーにおすすめの一冊です。
