侵害受容性疼痛の理解が臨床の鍵
臨床で遭遇する疼痛の多くは 侵害受容性疼痛 に分類されます。侵害受容器が反応する刺激は大きく 化学的刺激 と 物理的刺激 に分けられます。それぞれの特徴を理解することは、疼痛誘発組織の鑑別や治療戦略を立てるうえで不可欠です。
化学的刺激による疼痛:炎症性疼痛
化学的刺激による痛みは 炎症性疼痛 と呼ばれます。炎症を起こした組織は過敏化しており、通常では痛みを感じない程度の刺激でも強い痛みとして認識されるようになります。
炎症に至る過程
- 初期段階:組織がストレスを受け、「違和感」レベルの軽微な症状が出現
- 微細損傷期:ストレスが蓄積し、炎症所見はないが運動時痛が出現
- 炎症期:発赤・腫脹・熱感・疼痛を伴い、MRI(T2強調画像・STIR)でも高輝度変化を認める
炎症が長引くリスク
- 癒着や瘢痕形成を招く
- 治癒過程が遅延し、慢性疼痛化する可能性
👉 臨床的示唆
炎症は可能な限り早期に沈静化させることが重要です。進行段階を見極め、時期に応じたアプローチ(安静・物理療法・運動療法)を選択する必要があります。
物理的刺激による疼痛
臨床で頻繁に遭遇する物理的刺激は、大きく以下の3種類に分けられます。
- 筋の攣縮(不随意収縮)に伴う伸張刺激
- ファシア(筋膜)の癒着に伴う滑走障害
- 筋や関節包の短縮に伴うインピンジメント
筋緊張と疼痛の関係
筋が過度に緊張すると、筋外膜などの神経終末が刺激され、痛みの原因となります。また、筋内の酸素供給が不足し、乳酸が蓄積。これが引き金となり、以下の物質が発生します。
- 発痛物質:ブラジキニン
- 発痛増強物質:プロスタグランジン
これらが侵害受容器を刺激し、疼痛を引き起こします。
※ 厳密には化学的刺激ですが、筋緊張や伸張ストレスによって二次的に発生するため、臨床では物理的刺激に関連して説明されることもあります。
筋・筋膜由来の疼痛の特徴
- 停止部(骨膜や関節包の付着部)に症状が出やすい
- 理由:停止部は伸張刺激を受けやすく、微細損傷が生じやすいため
👉 臨床的示唆
- 攣縮や短縮が原因か
- 筋膜の滑走障害が原因か
- どの組織に負荷が集中しているか
これらを鑑別することで、疼痛の正確な原因を把握できます。
臨床での鑑別の重要性
炎症性疼痛と物理的刺激による疼痛は、進行過程や治療アプローチが異なります。
- 炎症性疼痛 → 早期沈静化が最優先。安静や物理療法で炎症を抑えつつ、回復期には適度な運動を導入。
- 物理的刺激による疼痛 → 筋緊張や筋膜滑走不全を改善する徒手療法、柔軟性改善のためのストレッチや運動療法が有効。
両者が併発しているケースも少なくないため、問診・視診・触診を通じた鑑別が臨床で極めて重要です。
まとめ
- 侵害受容性疼痛は「化学的刺激(炎症)」と「物理的刺激」に分けられる
- 炎症性疼痛は段階的に進行し、早期に沈静化させることが治療の鍵
- 物理的刺激による疼痛は筋緊張・筋膜癒着・インピンジメントが代表例
- 痛みの性質を鑑別し、進行段階や組織特性に応じたアプローチが不可欠
疼痛の種類と発生機序を理解することは、リハビリテーションの評価精度を高め、治療効果を最大化するための基盤となります。