権力や名誉を求めすぎる人の心理とは?|アドラー心理学が教える“本当の強さ”と共同体感覚
権力や名誉を追い求める心理とは
アドラーは『性格の心理学』の中で、人の発言や行動からその人の「共同体感覚」のレベルがわかると述べています。
つまり、他者との関係の中でどのように振る舞うかが、その人の心理的成熟度を映し出しているというのです。
「共同体感覚が高い人ほど、権力や名誉を求める努力は少ない。
一方で、低い人は名誉を徹底的に追い求め、自分の優越を誇示しようとする。」
この言葉には、現代社会に通じる深い洞察があります。
SNSでの承認欲求、職場での競争、他人との比較──私たちの多くは、気づかぬうちに“名誉や評価”に振り回されがちです。
権力や名誉を求める動機の裏にある「不安」
アドラー心理学の視点から見ると、権力や名誉を過剰に求める人の根底には、劣等感と不安が隠れています。
人は誰しも「自分は十分ではない」と感じる瞬間があります。
その不安を埋めるために、「他人より優れている」「認められている」という外的な証拠を求めてしまうのです。
しかし、それはまるで穴の空いたバケツに水を注ぐようなもの。
どれだけ成功や称賛を得ても、心の中の不安は満たされません。
アドラーはこのような心理を「優越コンプレックス」と呼び、
「自分が他者より上でなければ価値がないと信じる思考の歪み」
として警告しています。
共同体感覚が高い人は「比べない」
一方で、共同体感覚が発達している人は、他者と自分を比べて優劣を競うことに意味を感じません。
なぜなら、彼らは「人はみな同じ共同体の一員」であり、「他者は敵ではなく仲間」だと考えているからです。
こうした人は、自分の価値を「社会への貢献」や「人とのつながり」の中に見出します。
だからこそ、他者を支配したり、認めさせたりする必要がないのです。
たとえば、職場でチームをまとめるリーダーが「皆を動かす権力」ではなく「信頼を築く力」で人を導くように。
共同体感覚の高い人は、静かで確かなリーダーシップを発揮します。
名誉を求めすぎると何が起こるか
権力や名誉を求めすぎる人は、しばしば次のような悪循環に陥ります。
- 他人の評価を気にしすぎて、自分の軸を失う
- 認められないと怒りや嫉妬が生まれる
- 周囲との信頼関係が崩れ、孤立していく
この状態では、どれだけ外的な成功を手にしても、心の安定は得られません。
アドラーは、こうした生き方を「誤ったライフスタイル」と呼びました。
彼が提唱する“健全な努力”とは、他人を支配するためではなく、他人と協力しながら成長していく努力なのです。
「自分の価値」を他者の中に見出す方法
では、どうすれば権力や名誉への過剰な執着から抜け出せるのでしょうか?
アドラー心理学が示すのは、次の3つの方向性です。
1. 「貢献感」を意識する
「誰かの役に立てた」と感じる経験を積むこと。
それが自己価値感を内側から育て、外的な承認への依存を減らします。
たとえば、同僚をサポートしたり、後輩に助言したりといった小さな行動で十分です。
2. 「仲間意識」を持つ
他人を競争相手ではなく、共に成長する仲間と見る。
他者の成功を「自分の負け」ではなく「共同体の成果」と捉えられるようになると、心に余裕が生まれます。
3. 「感謝の視点」を育てる
「周囲に支えられている自分」に気づくこと。
感謝の気持ちは、権力欲や名誉欲を和らげ、より穏やかで協調的な心を育てます。
真のリーダーとは「支配」ではなく「共感」で導く人
アドラーは、人の成熟度を「他者との関係の持ち方」で判断しました。
権力や名誉を追い求める人ほど、他人を支配しようとし、関係を壊します。
しかし、共同体感覚を持つ人は、相手を信頼し、協力を引き出すことができます。
それは、組織のリーダーだけでなく、親や教師、そして一人の人間としても同じです。
「共感」と「協力」こそが、真の強さであり、人間的な成熟の証なのです。
まとめ:本当の価値は、比べることでは見えない
- 権力や名誉を過度に求めるのは、劣等感と不安の裏返し
- 共同体感覚が高い人ほど、他者との比較や支配に意味を感じない
- 真の成長とは、「貢献」「仲間意識」「感謝」を通じて生まれる
- 人の価値は、他人より上に立つことではなく、他者と共に生きることにある
アドラー心理学が伝えるのは、**「優越ではなく協力こそが人を幸せにする」**という普遍的なメッセージです。
他者を押しのけるよりも、支え合いながら生きる方が、はるかに豊かな人生をもたらしてくれます。
あなたが今日からできる小さな「貢献」こそが、権力や名誉を超えた“本当の価値”を育ててくれるのです。
