リハビリ関連

関節モビライゼーションの理論と実践:肩関節周囲炎から変形性関節症までの臨床応用

関節モビライゼーションとは

リハビリ臨床で「関節が硬い」と感じたとき、その原因が 関節内の制限 なのか、関節外の制限 なのかを区別することは極めて重要です。その評価・治療に用いられるのが 関節モビライゼーション です。

ROM測定だけでは判断しにくい靱帯や関節包の状態を調べられる点が大きな特徴であり、特に 肩関節周囲炎 では関節包が縮小しているため、本手技が有効に働きます。


適応と注意点

関節包が縮小して可動域が制限されているケースでは、モビライゼーションによって関節内運動を改善できます。

しかし、関節包の縮小は必ずしも「悪」ではありません。時には可動域を狭めることで関節を保護していることもあります。

  • 例:変形性膝関節症(初期)
     → 膝の前後動揺が大きく、進行に伴って動揺が小さくなる。
     → これは関節を守るための代償であり、無理に可動域を広げると疼痛や変形を助長する可能性あり。

👉 結論:可動域を広げないという選択肢も治療戦略の一つである。


関節モビライゼーションの方法

関節モビライゼーションは「通常の骨運動では起こらない関節内の動き」を引き出す手技です。主に関節包の伸張を目的とします。

具体的な誘導方向は次の3種類に分類されます。

  1. あそび滑り(glide)
     一方の骨を固定し、反対側の骨を水平移動させる。主に 関節包 が伸張される。
  2. 傾斜(tilt)
     一方の骨を固定し、関節面を傾斜させる。関節面の軟部組織 にアプローチ可能。
  3. 引き離し(distract)
     骨同士を長軸方向へ引き離す。正常であれば 2~3mm程度の離開 が確認できる。

実施時の工夫

  • 関節包をやや伸張位に保持し、関節の遊びを残した状態で行う
  • 例:肩関節後方包を伸ばす場合 → 肩関節を屈曲位に誘導し、可動域の最終域手前で施術
  • 伸ばしたい部位によって伸展位・外転位などポジションを変える必要あり

👉 痛みがない(少ない)状態で実施することが必須


臨床応用の流れ

  1. 前処置
     - 関節周囲の筋攣縮やファシアの滑走不全を改善
     - 炎症が残存している場合は先に鎮静化を図る
  2. 温熱療法との併用
     関節包や靱帯はコラーゲン含有量が高く、超音波治療により温度上昇が得られやすい。
     → 超音波治療後にモビライゼーションを行うと効果的
  3. 施術中の評価
     インピンジメントを誘発していないかを確認しながら進める。

関節内インピンジメントの注意点

インピンジメントとは「組織の挟み込み」です。

  • 例:肩関節
     後方関節包が短縮すると、水平内転時に骨頭が前方へ変位 → 前方組織を挟み込み疼痛を生じる。

この状態で無理にモビライゼーションを行うと悪化するため、どの動きでどこに痛みが出ているかを逐一確認することが大切です。


まとめ

  • 関節モビライゼーションは関節内運動を改善し、特に肩関節周囲炎で有効
  • ただし、関節包の縮小が保護的に働く場合には拡大が逆効果になることもある
  • 手技は「あそび滑り」「傾斜」「引き離し」の3種類
  • 炎症や筋緊張を除去したうえで、痛みの少ない状態で行うことが重要
  • 超音波治療などと併用することで効果を高められる
  • インピンジメントのリスクを常に意識し、患者の反応を確認しながら施術する

関節モビライゼーションは「どこを、なぜ、どの方向に動かすのか」を明確にして行う必要があります。評価と施術を一体化させながら、安全かつ効果的に活用していきましょう。

ABOUT ME
taka
理学療法士TAKAが自分の臨床成果を少しでも高めるために、リハビリ・運動学・生理学・物理療法について学んだ内容を発信。合わせて趣味の読書や自己啓発等の内容の学びも自己満で発信するためのブログです。