「才能よりも勇気と訓練が人を育てる」|アドラー心理学が教える“成長できる人”の条件
才能よりも「どう使うか」が重要
アドラー心理学の創始者アルフレッド・アドラーは、『人はなぜ神経症になるのか』の中でこう述べています。
「遺伝の論理は、教育や心理学の実践においては強調すべきではない。
重要なのは、“もって生まれたものをどう使うか”である。」
つまり、人の成長を決めるのは能力そのものではなく、能力の使い方です。
アドラーは「誰でも、なんでも達成できる」と仮定すべきだと説きました。
それは、遺伝的な差を無視するという意味ではありません。
むしろ、「どんな個性を持っていても、勇気と訓練によって成長できる」という前提に立つことが、教育の本質だというのです。
「遺伝」は可能性の出発点にすぎない
私たちはしばしば、「あの人は才能がある」「私はセンスがない」と、自分の能力を遺伝や素質で説明しがちです。
しかしアドラー心理学では、遺伝は“出発点”にすぎず、“到達点”ではないと考えます。
才能とは、持って生まれた資質そのものではなく、
「勇気と訓練によって開花させた結果」
なのです。
例えば、音楽家やアスリートが高い能力を発揮するのは、遺伝よりも「努力を続ける姿勢」や「支える環境」があったから。
どんな分野でも、本質的な違いを生むのは環境と学び方なのです。
よい教育とは「勇気を与えること」
アドラーによれば、教育の目的は単に知識やスキルを教えることではありません。
「よい教育とは、能力があるかないかにかかわらず、人を成長させることだ。」
ここで重要なのが「勇気づけ(Encouragement)」という考え方です。
人は、「自分にもできるかもしれない」と感じたときに初めて行動を起こせます。
そして、その行動の繰り返しが「訓練」となり、成長へとつながるのです。
反対に、「どうせ無理」「才能がない」と言われ続けた人は、自分の可能性を信じる勇気を失ってしまいます。
教育とは、知識を与えることではなく、勇気を取り戻させることなのです。
「勇気」と「訓練」で能力は育つ
アドラーは、人間の能力は次の二つの要素で伸びると考えました。
1. 勇気(Courage)
失敗や劣等感に負けず、挑戦しようとする心の力。
この勇気がなければ、訓練を始めることも続けることもできません。
2. 訓練(Training)
経験を通じて、努力を積み重ねること。
才能がなくても、繰り返しの練習によって能力は必ず磨かれます。
この2つが揃えば、人は「能力がない」と思っていたことすら、やがて“強み”に変えられるのです。
アドラーは次のように述べています。
「能力がないという自覚は、大きな業績を残すほどの刺激になる。」
つまり、自分の弱さを受け入れたときこそ、真の成長が始まるということです。
成長できる人の共通点:環境よりも“姿勢”
心理学的に見ても、成功や成長を遂げる人の共通点は「環境」ではなく「姿勢」です。
才能やチャンスがなくても、「やってみよう」という勇気を持つ人は、どんな状況からでも前に進めます。
たとえば――
- 学業が苦手でも、毎日コツコツと努力を続けた生徒が成績を伸ばす
- 運動が得意でなかった人が、練習によってチームの中心選手になる
- 一度失敗した人が、もう一度挑戦して新しい成果を出す
これらはすべて、「勇気と訓練」による変化の証です。
アドラー心理学では、こうした“自己変革の力”こそ人間の尊厳だと考えます。
アドラー流「成長を引き出す3つの実践」
1. 「できる可能性」を信じて関わる
教師や親、上司など、教育的立場にある人がまず「あなたならできる」と信じること。
信頼のまなざしが、相手の勇気を引き出します。
2. 失敗を“学びの素材”として扱う
失敗を恐れさせる教育では、挑戦する力は育ちません。
「失敗=成長の途中」と教えることで、努力を継続できるようになります。
3. 努力を具体的に認め、励ます
「頑張ったね」「ここが良くなったね」と、過程を評価する。
これが、勇気を支える最もシンプルで強力な方法です。
劣等感を「成長エネルギー」に変える
アドラー心理学では、「劣等感」は悪いものではなく、人を前進させる原動力だと考えます。
「自分はまだ足りない」と感じるからこそ、人は努力し、訓練を重ね、成長を続けられる。
つまり、劣等感を乗り越えようとする勇気こそ、人生を建設的に動かすエネルギーなのです。
その意味で、教育者や親の役割は、
「子どもの劣等感を責めることではなく、それを希望に変える手助けをすること」だと言えるでしょう。
まとめ:勇気と訓練で、才能は育つ
- 遺伝や才能よりも、「使い方」と「努力の方向性」が重要
- 教育の目的は、知識を与えることではなく“勇気を育てること”
- 能力がないと感じても、勇気と訓練で成長は可能
- 失敗を恐れず挑戦する姿勢が、真の実力を作る
- 劣等感は、成長への刺激であり、可能性の出発点
アドラー心理学が教えてくれるのは、人はいつからでも成長できる存在だという希望です。
生まれ持った才能に頼るのではなく、「勇気を持って、訓練を続けること」。
その積み重ねこそが、人生を豊かにし、人を偉大にする唯一の道なのです。
