目標がなければ道は見えない|アドラー心理学が教える“目的論的な生き方”
「目標を見ずに線は引けない」
アドラー心理学の創始者アルフレッド・アドラーは、『教育困難な子どもたち』の中で次のように述べています。
「一本の線を引こうと思ったとき、目標となる最終ポイントを見ていないと、最後まで線を引くことはできない。」
この比喩は、私たちの人生や学び方にもそのまま当てはまります。
ただ“やりたい”“頑張りたい”という欲求だけでは、行動は方向を失ってしまう。
明確な目標があってこそ、人は道を歩むことができる。
これが、アドラー心理学が説く「目的論的な生き方」の基本原則です。
欲求だけでは、人は動けない
アドラーは、人間の行動を「原因」ではなく「目的」から説明しました。
つまり、「なぜそうなったのか」よりも、「どこへ向かおうとしているのか」が重要だということです。
「欲求があるだけでは、どんな線も引くことはできない。」
多くの人は、「やる気が出ない」「何をしたいのかわからない」と悩みます。
しかしアドラー的に言えば、それは「欲求はあるが、目標が定まっていない」状態です。
やりたいことが見えないのではなく、“向かう先”が設定されていないだけ。
どんなに強いエネルギーを持っていても、目標がなければ進む方向がわからず、結局立ち止まってしまうのです。
未来に目標を設定することで「道」が見える
アドラーはこう続けます。
「未来に目標を設定して初めて、それに向かって道を歩むことができる。」
私たちは過去の出来事に縛られることが多いですが、アドラー心理学の視点では、
人生は“未来”によって方向づけられるものです。
たとえば、
- 「英語を話せるようになりたい」と思えば、勉強を始める
- 「健康でいたい」と思えば、生活習慣を見直す
- 「信頼される人間になりたい」と思えば、誠実な行動を選ぶ
このように、人は“未来の理想像”を持つことで、現在の行動を選択するようになります。
言い換えれば、未来が現在をつくるのです。
「原因論」ではなく「目的論」で考える
多くの心理学が「なぜそうなったのか」という“原因論”を重視するのに対し、
アドラー心理学は「何のためにそうしているのか」という“目的論”で考えます。
例えば、遅刻を繰り返す子どもがいたとします。
原因論では、「夜更かしした」「注意力がない」などと説明するでしょう。
しかし目的論では、「遅刻をすることで、注目を集めたい」「先生の関心を得たい」と考えます。
このように、アドラー心理学では行動の裏にある“目的”を見抜くことが大切です。
それができるようになると、自分自身の行動にも新たな気づきが生まれます。
目標を設定する3つのステップ
アドラー心理学の実践では、次のように「目標」を具体的に描いていくことが推奨されます。
1. “なりたい姿”を明確にする
「何をしたいか」ではなく、「どんな人になりたいか」を考えます。
たとえば、「他者を勇気づけられる人」「信頼されるリーダー」「穏やかに生きる人」など、
自分の“あり方”を描くことが、長期的な指針になります。
2. 具体的な行動目標を立てる
理想像を描いたら、それを実現するための小さな行動を設定します。
「毎日1つ、誰かに感謝を伝える」「1日10分、学びの時間を作る」など、
実行できるレベルにまで分解することがポイントです。
3. 途中で修正してもいいと知る
目標は、一度立てたら変えてはいけないものではありません。
成長に応じて方向が変わるのは自然なこと。
大切なのは「歩みを止めないこと」であり、変化を受け入れながら進む勇気です。
子どもや部下の成長にも応用できる
アドラー心理学の目標設定は、教育や指導の場にも応用できます。
たとえば、子どもや部下が「やる気が出ない」と言うとき、
叱るよりも、「何を目指したいの?」と聞くことが効果的です。
人は、自分で目標を描いた瞬間から、行動に意味を感じ始めます。
他人に言われたことではなく、**自分で設定した“目的”**に向かうとき、
人は最も強いエネルギーを発揮するのです。
目標は「希望の線」になる
アドラーの言う“線を引く”という比喩は、人生の希望そのものを表しています。
線を描くためには、まず終点を見据える必要があります。
終点(=目標)を見ていれば、
途中で迷っても、道が多少歪んでも、再び方向を修正できる。
しかし、目標を見失えば、線は途切れ、道も見えなくなります。
だからこそ、アドラーは「人は未来によって導かれる」と言いました。
未来を見据えることは、希望を見据えることなのです。
まとめ:目標を描くことで人生は動き出す
- 欲求だけでは人は動けない。行動の原動力は「目標」にある
- アドラー心理学は「原因論」ではなく「目的論」で人生をとらえる
- 未来に目標を設定してこそ、現在の道が見える
- 目標は固定ではなく、成長に応じて柔軟に修正していい
- 人生の線を描くには、まず「どこへ向かうか」を決めること
アドラー心理学が教えるのは、**“過去ではなく未来に導かれる生き方”**です。
どんなに小さくても、自分の未来に「目印」を立てることで、
あなたの毎日は確実に意味を持ち始めます。
今、この瞬間に――
あなたが描く一本の“希望の線”が、未来のあなたを導く道になるのです。
