半腱様筋と半膜様筋の解剖を徹底解説|内側ハムストリングスの構造と臨床的意義
内側ハムストリングスを構成する2つの筋
ハムストリングスは、大腿後面に位置する強力な屈筋群であり、
大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋の3筋によって構成されます。
そのうち、半腱様筋と半膜様筋は内側ハムストリングスとして一体的に機能し、
股関節および膝関節の安定性・運動制御に大きく関与します(C36)。
半腱様筋の解剖学的特徴
① 形態的特徴
半腱様筋(Semitendinosus muscle)は、筋腱移行部が長く、腱成分が優位な構造を持ちます。
つまり、筋腹よりも腱が占める割合が高く、細長い形状が特徴です。
この構造により、膝関節運動時に長い滑走距離を確保でき、柔軟性に富んだ運動が可能となります。
② 起始・停止
- 起始:坐骨結節(ハムストリング共通起始)
- 停止:脛骨内側面(鵞足部の後方)
半腱様筋は鵞足部の中でも最も後方に位置し、薄筋・縫工筋と腱膜的に癒合します。
このため、鵞足炎や滑走障害の際には後方からの摩擦が問題となることがあります。
③ 機能
- 股関節伸展
- 膝関節屈曲・下腿内旋
膝屈曲時には下腿内旋を補助し、膝内側の動的安定性を高めます。
半膜様筋の解剖学的特徴
① 形態的特徴
半膜様筋(Semimembranosus muscle)は、半腱様筋とは対照的に筋実質部が長く厚い構造を持ちます。
そのため、強い筋出力を発揮する筋性要素として働きます。
また、半膜様筋の停止腱は膝関節包後方に広く付着しており、
靭帯的要素として膝関節の**後内側安定化機構(posteromedial complex)**に寄与します。
② 起始・停止
- 起始:坐骨結節
- 停止:脛骨内側顆の後方部、膝関節包(後斜靱帯:POL)
この停止部は、MCL深層およびPOL(Posterior Oblique Ligament)と連続しており、
膝の伸展時に後方への牽引を制御する構造的役割を担っています。
③ 機能
- 股関節伸展
- 膝屈曲・下腿内旋
- 膝伸展時の後内側安定化(制動作用)
このため、半膜様筋は単なる屈筋ではなく、膝の制御筋としても非常に重要です。
半腱様筋と半膜様筋の形態的比較
| 項目 | 半腱様筋 | 半膜様筋 |
|---|---|---|
| 構造 | 腱が長く細い | 筋腹が長く厚い |
| 主な役割 | 滑走性・柔軟性の確保 | 力発揮・安定化 |
| 機能的特徴 | 動的支持(膝屈曲補助) | 靭帯的支持(伸展制御) |
| 病態での関与 | 鵞足部炎・滑走障害 | POL・後内側拘縮 |
| 触診部位 | 鵞足部後方 | 膝後内側深部 |
このように、両筋は同じ“内側ハムストリングス”でありながら、
形態・力学・臨床意義が明確に異なっています。
周囲構造との関係:薄筋・内転筋群との連携
内側ハムストリングスの内側方には**内転筋群(特に大内転筋・薄筋)**が位置します。
薄筋は細長い腱を形成し、大内転筋腱付属の膝包を貫いて走行し、膝内側で半腱様筋・半膜様筋と連携します。
このため、
- 内転筋群の緊張や癒着
- 鵞足筋群の滑走制限
は互いに影響し合い、膝内側部痛や動作制限の原因となり得ます。
臨床における触診と評価の注意点
① 半腱様筋
- 鵞足部後方を触診。
- 膝屈曲位でやや内旋を加えると索状構造として触知しやすい。
- 薄筋との判別が難しいため、足関節背屈を加えて滑走差を確認すると有効。
② 半膜様筋
- 膝後内側の深層に位置。
- 脛骨内側顆後方を触診すると、幅広い腱膜状の構造として確認できる。
- 触診時は薄筋腱との並走に注意し、浅層の腱と誤認しないよう留意。
このように、両筋は層構造的に重なり合うため、触診では立体的な理解が欠かせません。
臨床的意義:内側ハムストリングの短縮・滑走障害
半腱様筋・半膜様筋はいずれもハムストリングスの一部として、
股関節伸展・膝屈曲動作で強く働きます。
しかし、これらの筋が過剰に短縮または滑走制限を起こすと、以下の問題を引き起こします。
- 膝屈曲制限や可動域低下
- 歩行時の立脚終末期での膝伸展制限
- 鵞足部または膝後内側部の圧痛・張り感
- 坐骨神経との癒着による放散痛
特に半腱様筋は滑走性を、半膜様筋は張力制御を担っており、
両者のバランス破綻が膝痛の背景に存在するケースが多いのです。
まとめ:半腱様筋・半膜様筋を“機能的に”理解する
- 半腱様筋:腱成分が長く、滑走性と動的安定性を担う
- 半膜様筋:筋腹が厚く、力学的安定性と制動機能を担う
- 両者は内側ハムストリングスとして、股・膝関節の協調運動を支える
臨床では、これらの筋を「単にハムストリングスの一部」として捉えるのではなく、
膝後内側の多層構造の一翼を担う滑走系・安定化系として理解することが重要です。
