♟️ チェスから学べるもの⑥「勝ちにこだわらない」──フランクリンが教える“品格ある勝負の哲学”
■ 勝ち負けよりも「どう勝つか」「どう負けるか」
フランクリンは、『チェスの教訓』の最後でこう語ります。
「敵に勝ちたいという欲望は抑えて、自分に勝つことに喜びを見いだすべきだろう。」
チェスは、勝ち負けが明確なゲームです。
しかし、フランクリンにとって重要なのは“勝敗そのもの”ではありません。
それよりも、
- どう勝つか(誠実に戦う)
- どう負けるか(潔く受け入れる)
という、品格のある態度でした。
勝負の本質とは、相手を打ち負かすことではなく、自分の欲望や感情に打ち勝つこと。
フランクリンはこれを「自分に勝つことの喜び」と呼びました。
■ 「勝つためなら何をしてもいい」は誤り
現代社会では、「結果がすべて」「勝てば官軍」といった風潮が強まっています。
しかしフランクリンは、チェスを通してそれに異を唱えました。
「相手のへたな差し手や、不注意から生まれたチャンスに飛びついたりせず、
親切に指摘してあげるべきだろう。」
一見、これは“甘い考え”のように思えるかもしれません。
しかし、フランクリンが言いたかったのは、勝利よりも誠実さを選ぶ勇気です。
勝ちを急ぐあまり、人としての尊敬を失うなら、それは真の勝利ではありません。
誠実にプレイし、相手に敬意を示すことが、人間としての勝利なのです。
■ 「相手のミス」を指摘できる人は、信頼される
フランクリンの教えには、思いやりの力が流れています。
「そういうふうに動かすと、駒を危険で無防備な状態にさらすことになってしまいますよ。」
この一言には、相手への配慮と、ゲームを“共に楽しむ”心があります。
自分の得よりも、相手の学びを優先する。
それはまさに、教育者であり哲学者であったフランクリンらしい姿勢です。
現代でいえば、
- 部下のミスを責めず、次のチャンスにつなげる上司。
- 競合相手の成功を素直に祝福できるビジネスパーソン。
こうした「懐の深さ」こそが、長く信頼されるリーダーの条件です。
■ 「不正の反対は、寛大さと礼節」
フランクリンは、ゲームでの倫理についても触れています。
「このように寛大な態度と礼節は、ルールで禁止されている不正とは真逆である。」
つまり、
- 不正は“自分の利益”しか見ない行為。
- 寛大さは“相手の尊厳”を見ている行為。
どちらの人が、より深い信頼と尊敬を得るでしょうか。
フランクリンは、「誠実さは勝利よりも価値がある」と断言しています。
■ 「勝つ」より「尊敬される」ほうが強い
フランクリンは言います。
「たしかにゲームとしては負けにつながるだろうが、はるかにすぐれたものを手に入れるだろう。」
その“すぐれたもの”とは何か。
それは、尊敬・信頼・好意・品格のことです。
- 相手からの尊敬
- 見ている人からの称賛
- 自分自身への誇り
これらは、一度手にしたら失われにくい「真の勝利」です。
つまり、
「勝つこと」は一瞬の満足、
「敬意を得ること」は永続する喜び。
フランクリンは、そう教えているのです。
■ 現代に通じる「勝ちにこだわらない」生き方
- 相手を踏み台にしない
競争相手であっても、敬意を持って接する。 - 結果よりプロセスを大切にする
勝敗よりも、どんな姿勢で取り組んだかに価値を置く。 - 勝ったあとこそ謙虚に
勝利の瞬間にこそ、礼節と感謝を忘れない。
■ まとめ:「品格ある敗者は、いつか勝者になる」
ベンジャミン・フランクリンの言葉:
「敵に勝ちたいという欲望は抑えて、自分に勝つことに喜びを見いだすべきだろう。」
勝負の世界で真に尊敬されるのは、勝ち続ける人ではありません。
誠実に戦い、品格を失わない人です。
フランクリンが教える“勝ちにこだわらない”とは、
「勝ち負けを超えて、自分の生き方を磨け」
という深いメッセージです。
チェスは、人生そのもの。
駒を動かすたびに、私たちは「誠実さ」という目に見えない勝負をしているのです。
