「全員を満足させよう」とするほど疲れる:フランクリンの寓話に学ぶ、他人の評価に振り回されない生き方
「すべての人を満足させることはできない」――。
この単純でありながら、深い真理を教えてくれるのが、ベンジャミン・フランクリンの寓話「父と息子とロバ」です。
お人好しの父親と息子が、売り物のロバを引いて市場へ向かう途中で、次々と旅人たちから意見を浴びせられます。父だけがロバに乗れば「子どもを歩かせて恥ずかしくないのか」と批判され、二人で乗れば「ロバがかわいそう」と言われる。息子だけが乗れば「親を歩かせるとはなんて子だ」と非難され、二人で歩けば「なぜロバを使わないのか、バカげている」と言われる。
最後に父親はついに悟ります――「息子よ、すべての人を満足させるなんて無理な相談だ」。
■ 他人の目を気にするほど、自分を見失う
この寓話の本質は、**「他人の基準で生きようとすれば、どこにも正解はない」**ということです。
誰かに褒められた行動が、別の誰かには批判の対象になる。職場でも家庭でも、同じ経験をしたことがある人は多いでしょう。上司に「もっと主体的に」と言われて意見を出したら、「出しゃばりだ」と言われる。慎重に行動すれば「消極的だ」と言われる。――まさに、ロバをどう扱っても批判された父子のような状況です。
人は本能的に「他人の評価」を気にします。社会的な生き物である以上、評価や承認が私たちの安心感を支えるのは当然のことです。しかし、それが行き過ぎると、自分の判断基準を失い、常に「どう見られているか」に怯えるようになります。これはメンタル面の消耗を招き、長期的には自信を奪っていくのです。
■ 「他人軸」ではなく「自分軸」で判断する
フランクリンの寓話が今なお示唆に富むのは、**「どんな選択にも批判はつきまとう」**という冷静な現実認識です。
それを理解した上で、私たちがすべきことは、“全員に好かれる”努力ではなく、“自分が納得できる”行動を取ることです。
心理学ではこれを「自分軸で生きる」と言います。自分軸とは、他人の期待ではなく、自分の価値観・目的・信念に基づいて行動すること。たとえば、誰かの承認を得るために仕事をするのではなく、「自分はこの仕事を通じて何を達成したいか」を明確にする。そうすれば、周囲の声に一喜一憂せず、落ち着いて行動できるようになります。
自分軸を持つことは、決して「他人を無視する」ことではありません。むしろ、周囲の意見を参考にしながらも、「最終的な判断は自分で下す」という責任ある態度です。フランクリンの父親のように、すべての声に従おうとして疲弊するよりも、自分の目的に沿って一歩を踏み出す方が、結果的に周囲からの信頼も得られやすいのです。
■ SNS時代こそ必要な“スルー力”
この寓話は、SNS社会の私たちにとっても非常に示唆的です。投稿すれば「いいね」がつく一方で、批判も簡単に届く時代。誰かの評価を意識しすぎると、発信することすら怖くなります。
そんな時に思い出したいのが、フランクリンの父親の言葉です。「すべての人を満足させることはできない」。だからこそ、自分の意図を明確にし、「この意見は自分の信念に基づいている」と言えるなら、それで十分なのです。100人中100人に理解される発信など存在しません。大切なのは、信頼できる少数の理解者と誠実な関係を築くことです。
■ 批判を恐れず、自分の道を歩こう
フランクリンの寓話の最後で、父子はロバを捨てて歩きます。それは、他人の声に振り回されることをやめ、自分の選択を受け入れた瞬間です。
この「ロバを捨てる」という象徴的な行動は、現代でも通じるメッセージです。私たちも、他人の期待や過剰な承認欲求という“ロバ”を一度手放すことで、心の自由を取り戻せるのです。
結局のところ、人の評価は変わり続けます。しかし、自分の誠実な判断は、時間が経っても裏切りません。だからこそ、自分の価値観に正直であること。それが最も後悔のない生き方なのだと、フランクリンの寓話は静かに教えてくれます。
