ベンジャミン・フランクリンの「13の徳」その1〜7:人格を磨くための実践ルール
アメリカ建国の父ベンジャミン・フランクリンが25歳のときに立てた「13の徳」は、単なる道徳規範ではなく、日々の行動を通じて人格を高めるための実践書でした。
今回はそのうちの前半、「1〜7の徳」を紹介しながら、現代に生きる私たちがどのように取り入れられるかを解説します。
■ 1. 節制 ― 身体と心の基礎を整える
「満腹してだるくなるまで食べるな。酔っぱらうまで飲むな。」
フランクリンが最初に掲げた徳が「節制」でした。彼は、体の節度がすべての土台だと考えたのです。
暴飲暴食は理性を鈍らせ、判断力を失わせます。特にフランクリンの時代、健康を崩せば働けず、学ぶ機会も失われました。
現代でも同じことが言えます。食事や睡眠、飲酒のコントロールは、集中力や生産性に直結します。
「節制」は禁欲ではなく、目的のために自分を整える自己管理の力なのです。
■ 2. 沈黙 ― 言葉に責任を持つ
「自分にも他人にも、ためにならないことは口にするな。くだらないおしゃべりは避けよ。」
フランクリンは印刷業を営んでいたこともあり、言葉の力を深く理解していました。
彼にとって“沈黙”とは、単に黙ることではなく、言葉を選び、無駄を省くことを意味します。
現代のSNS時代では、この徳がいっそう重要です。軽率な発言が誤解や対立を生み、信頼を損なうこともあります。
沈黙とは、何も言わないことではなく、「言うべきことを選ぶ知恵」。
その姿勢こそ、誠実なコミュニケーションの基礎です。
■ 3. 規律 ― 混乱を防ぐ環境づくり
「自分のモノはすべて置き場所を決めて整理整頓せよ。自分の仕事は、すべて決めた時間にきちんと行うこと。」
フランクリンは、「秩序(Order)」を日々の効率と心の安定を生む要素と考えました。
デスクの上、スケジュール、メールボックス――乱れているほど判断力が鈍ります。
「どこに何があるか」を明確にし、「いつ何をするか」を決めておく。
これは単なる整理整頓ではなく、思考をクリアに保つ戦略的習慣です。
彼の規律の思想は、現代の「タイムマネジメント」や「ミニマリズム」にも通じます。
■ 4. 決意 ― 行動を止めない覚悟
「なすべきことを決意せよ。いったん決意したことは、かならずやり抜くこと。」
この徳は、意志の力と実行力を磨くものです。
フランクリンは、決意を「計画」と「実行」の架け橋と捉えていました。考えるだけでは変わらない。決めたら行動に移すこと。
現代では、「やる」と口にすることがゴールになりがちですが、本当の決意は“結果に責任を持つ覚悟”とセットです。
小さな決意を守ることが、自信を積み重ねる最良の方法です。
■ 5. 倹約 ― 無駄を省き、価値を生む
「他人にも、自分のためにならないことに無駄遣いするな。浪費するな。」
倹約は、単に「お金を使わない」ことではありません。
フランクリンはむしろ、**「自分と社会のために価値を生む支出をする」**ことを重視しました。
時間やエネルギーにも同じことが言えます。
「安易な誘い」「意味のない会議」「後悔する買い物」――私たちは“お金以外の浪費”も多くしています。
倹約とは、本当に大切なものに集中する生き方なのです。
■ 6. 勤勉 ― 無駄な時間を減らす
「時間を無駄にするな。いつでも何か役に立つことをする。不必要な行動はすべてカットせよ。」
フランクリンは自らの手帳に1日のスケジュールを書き、朝には「今日は何を成すか?」、夜には「今日は何を成したか?」と自問したといいます。
それほどまでに、彼は**時間を「命の一部」**として大切に扱いました。
私たちも“生産的でない時間”にどれだけ流されているか、立ち止まって見直すことが大切です。
勤勉とは、「長時間働くこと」ではなく、「目的を持って時間を使うこと」。
それが結果として、豊かさと充実感をもたらします。
■ 7. 誠実 ― 嘘をつかず、公正に生きる
「うそ偽りで人を害するな。考えも言葉も、単純かつ公正に。」
フランクリンは事業家であり政治家でもありました。その経験から、信頼こそ最大の資本であると理解していたのです。
誠実さは、他人のためではなく自分のための徳。
嘘や不正は一瞬の利益を生むかもしれませんが、長期的には信頼を失い、すべてを台無しにします。
「誠実さを保つ」ということは、自分の価値を守ること。
ビジネスにも人間関係にも通じる、普遍の真理です。
■ まとめ:行動で人格をつくる
フランクリンの徳の特徴は、どれも“具体的な行動指針”になっている点です。
節制も、沈黙も、勤勉も、すべては「どう生きるか」を問うだけでなく、「どう行動するか」を示しています。
彼はこれらの徳を手帳に書き込み、毎日チェックしながら、ひとつずつ習慣にしていきました。
完全には守れなくても、努力することで人格は確実に磨かれる――それがフランクリンの信念でした。
次回は、残る「8〜13の徳」を紹介し、心の成熟と社会への貢献につながる後半部分を解説します。
