フランクリンに学ぶ「規律を守る難しさ」:完璧主義ではなく柔軟な自己管理を目指そう
「規律(Order)」――。
これは、ベンジャミン・フランクリンが「13の徳」の中で特に重視した項目のひとつでしたが、同時に**“最も守るのが難しい徳”**でもありました。
彼は『自伝』の中でこう述べています。
「『規律』は、『13徳』のなかでも、わたしにとって守るのがもっとも困難であった。」
フランクリンのような勤勉な人物でさえ、完璧な規律を維持することは不可能だったのです。
では、なぜ「規律」はそんなに難しいのでしょうか。そして、私たちはどうすれば無理なく実践できるのでしょうか。
■ 「規律」は理想どおりにいかない現実を突きつける
フランクリンは若い頃、1日のスケジュールを分単位で計画し、時間の使い方を徹底的に管理していました。
彼の手帳には、「仕事・勉強・休息・反省」などの時間帯が明確に区切られ、まさに理想的なタイムマネジメントの形が記されていたのです。
しかし、彼が事業を拡大し、印刷所の経営者として多くの人と関わるようになると、
その計画どおりに行動することが難しくなりました。
「自分の時間を自由につかえる職人なら実行可能かもしれないが、
店の主人など経営者にとっては、かならずしもそうではない。」
これは現代のビジネスパーソンにも深く共感できる話です。
理想的なスケジュールを立てても、突然の来客、トラブル、メール対応、会議……と、
「他人の時間」に左右される状況が日常的に発生します。
フランクリンは早くも18世紀の段階で、**「規律とは、自分の時間を支配することではなく、変化に柔軟に対応する力」**であると気づいたのです。
■ 「計画通りにできない=失敗」ではない
フランクリンは、計画どおりに進まない自分を責めることはしませんでした。
むしろ、「現実とのズレこそ学び」として受け止めました。
「経営者が計画表どおりに実行するのは、不可能なのである。」
彼は、自分の生活を完全にコントロールすることが不可能であると認めた上で、
それでも手帳を持ち歩き、「理想を忘れない姿勢」だけは保ち続けたのです。
ここに、**フランクリン流の“規律の本質”**があります。
それは「すべてをコントロールすること」ではなく、
「乱れた後に、もう一度整える力」を持つこと。
言い換えれば、「軌道修正の技術こそ、真の規律」なのです。
■ 現代にも通じる「柔軟な規律」の考え方
現代社会では、時間のコントロールがますます難しくなっています。
テクノロジーによって便利になった一方、
通知・メール・SNS・オンライン会議などが私たちの集中を絶えず奪います。
そんな中で、フランクリンのように「分単位の完璧な計画」を維持するのは現実的ではありません。
では、どうすれば“崩れにくい規律”を持てるのでしょうか?
以下に、フランクリンの思想を現代風にアレンジした3つの実践法を紹介します。
① 「時間割」よりも「優先順位」を決める
フランクリンが守ろうとしたのは「時間」そのものではなく、「目的」でした。
彼にとっての“規律”とは、**「自分が本当に大切にしたいことを優先する力」**です。
現代では、1日のタスクを分刻みで管理するよりも、
「今日これだけは絶対にやる」ことを3つに絞るほうが現実的です。
これにより、多少予定が崩れても“本質的な規律”は守れます。
② 「計画が崩れる前提」でスケジュールを立てる
フランクリンは印刷業の現場で、予期せぬ依頼や顧客対応に追われていました。
彼のように柔軟に動くためには、スケジュールに“余白”を持たせることが大切です。
1日の中で、あえて1〜2時間を「予備時間」として空けておく。
これにより、急な変更にも対応でき、ストレスも減ります。
“予定が狂うのは当たり前”と考えれば、むしろ冷静に動けるようになります。
③ 「振り返り」を軸にする
フランクリンは毎晩、「今日の行動はどうだったか?」を手帳で振り返りました。
この「Check & Adjust(点検と調整)」の習慣が、PDCAの原型でもあります。
重要なのは、「できなかった自分を責めない」こと。
フランクリンのように、
「次にどう整えるか」を考えることで、規律は徐々に定着していきます。
■ 「規律」とは、自己対話の習慣である
フランクリンの言う「規律」は、
完璧なスケジュールを守ることではなく、
**「自分と対話しながら、再び立て直す力」**でした。
たとえ数日、数週間、習慣が崩れても構いません。
重要なのは、「手帳を閉じない」こと。
つまり、自分の理想を見失わないことです。
フランクリンも、海外出張や外交活動で規律が乱れても、
その手帳だけは常に持ち歩いていました。
そこに「再び立ち直るための原点」があったのです。
■ まとめ:規律とは、“守ること”ではなく“戻ること”
フランクリンの言葉から学べる教訓は明確です。
「規律とは、乱れた後にもう一度整える力である。」
完璧主義ではなく、柔軟な再スタートの姿勢こそが、長期的な成長を支えます。
人生には予期せぬ出来事がつきもの。
だからこそ、「戻る仕組み」を持っておくことが、真の規律なのです。
スケジュールが崩れた日こそ、自分を責めず、静かに整える。
その小さな“リスタート”の積み重ねが、フランクリンの言う「徳」に近づく第一歩となるでしょう。
