受けた恩をどう返すか ― フランクリンに学ぶ「恩送り(Pay It Forward)」の精神
最初の仕事が教えてくれた「支えられる喜び」
独立して印刷業を始めたばかりのベンジャミン・フランクリン。
ロンドンから届いた活字を箱から出し、印刷機を組み立てていたある日のこと。
知り合いが、地方からやってきたという一人の客を連れてきました。
彼は印刷を依頼できる店を探していたそうで、フランクリンにとってはまさに最初の顧客でした。
その支払いで受け取ったのは、わずか5シリング。
しかしフランクリンは、その小さな銀貨を「どんなに多くの金貨よりも嬉しかった」と語っています。
なぜならそれは、自分の努力を初めて社会が認めてくれた瞬間だったからです。
そして何よりも、その顧客を紹介してくれた知人の“善意”が心に残ったのです。
フランクリンが選んだ恩返しの形 ― 「次の世代を支える」
この出来事をきっかけに、フランクリンは「恩返し」について一つの信念を持つようになります。
それは――
「自分が受けた恩義は、恩人に返すのではなく、次の世代へ渡していく」
彼は後年、自伝の中でこう書き記しています。
「最初の顧客を紹介してくれた友人への感謝から、私は新しい事業を始める若者たちを、すすんで助けるようになった。」
フランクリンはその後、若い印刷職人や学徒を支援し、独立の機会を与えたり、知識を惜しみなく伝えたりしました。
つまり、彼の「恩返し」は**社会への恩送り(Pay It Forward)**として形になったのです。
「恩送り」は最高の自己投資
恩返しというと、つい「恩人に直接返すこと」を思い浮かべがちです。
もちろんそれも立派な行いですが、フランクリンの発想はもう一段階深いものでした。
彼は、支えられた経験を次の誰かを支える力に変えることで、社会全体に恩を循環させたのです。
この姿勢は現代でも「Pay It Forward(恩送り)」と呼ばれ、多くのビジネスパーソンや教育者が実践しています。
たとえば:
- 新人時代に支えられた恩を、後輩の育成で返す
- チャンスをもらった経験を、次の世代への mentoring(指導)でつなぐ
- 成功体験を共有し、他人の成長に役立てる
これらはすべて、フランクリンが200年以上前に実践していた「恩送り」の形です。
成功者は“支援者”でもある ― フランクリンのリーダーシップ
フランクリンの行動をよく見ると、彼が単なる成功者ではなく、他人の成功を支える人だったことがわかります。
彼は印刷所を繁盛させるだけでなく、若手の起業家たちを導き、時には資金面でも支援しました。
その根底には、「自分がしてもらったことを、次の人にもしてあげたい」というシンプルな動機がありました。
この考え方は、現代のリーダーシップ論にも通じます。
真のリーダーは、「支配する人」ではなく、「次のリーダーを育てる人」です。
フランクリンが多くの人から信頼され続けたのは、まさにこの支援者としての姿勢にありました。
小さな支援が、大きな未来をつくる
フランクリンにとって、5シリングの仕事は小さな取引にすぎませんでした。
けれど、それを紹介してくれた一人の知人の善意が、彼の人生を変えました。
そして、フランクリンの“恩送り”の精神は、のちに彼が創設した公共図書館や奨学基金などの社会活動にもつながっていきます。
私たちも同じです。
日常の中で誰かから助けてもらったなら、
「ありがとう」で終わらせずに、次の誰かを助ける番だと考えてみましょう。
その一歩が、信頼と支援の連鎖を生み出すきっかけになります。
まとめ ― 恩は返すより、つなげていくもの
ベンジャミン・フランクリンの生き方は、
「人は支え合いの中で成長する」ことを教えてくれます。
恩を受けたとき、私たちにできる最良の行動は――
それを次の世代に渡すこと。
恩送りは、感謝を行動に変える最も美しい方法です。
それがめぐりめぐって、あなた自身の人生を豊かにしてくれるのです。
