「もしも誰かから、名前のつづりを聞かれたら、一文字ずつ、大声で答えるだろうか?……いやむしろ、根気強く丁寧に一文字ずつ教えてあげるのではないか?」
これはローマ皇帝にして哲学者、マルクス・アウレリウスが『自省録』に残した一節です。彼は、人生の義務とは複雑な理屈ではなく「小さな行為の積み重ね」であり、それを秩序正しく行うことが肝心だと説きました。
感情的な反発が生む「余計な荷物」
職場や家庭で、誰かに頼み事をされたとき、こんな気持ちになったことはありませんか?
- 「なんで自分ばかり使い走りにされるんだ」
- 「頼み方が偉そうで腹が立つ」
その結果、反発心から「いいえ、やりません」と突っぱねてしまう。すると相手も腹を立て、過去に自分が頼んだことを断ってくる。小さな摩擦が積み重なり、関係はさらにこじれていく……。
本心では「そこまで重要ではない」ことなのに、感情に任せて行動すると、余計な対立やストレスを背負い込むことになるのです。
客観的に見れば「簡単なこと」も多い
一歩引いて状況を見直すと、相手の頼み事がすべて不当なわけではないと気づくことがあります。中には簡単に片付くものや、妥当と思えることもあるはずです。
そうしたものを淡々と処理していけば、思っていたほど大変ではないと分かるかもしれません。むしろ「気づけば全部片付いていた」ということすらあるでしょう。
結局のところ、問題を大きくしているのは「相手の態度への怒り」や「やりたくない気持ち」といった感情の反応なのです。
ストア派の「カテーコン」という考え方
ストア哲学には「カテーコン(適切な行為)」という概念があります。これは徳を養うための、日常のシンプルで正しい行いのことです。
- 感情に振り回されずに、今やるべきことをやる
- 取るに足らないことで腹を立てない
- 義務を小さな単位に分け、丁寧にこなす
こうした積み重ねが、自分の人生を整えていきます。
マルクス・アウレリウスが言うように、人生は「個々の行いの総体」です。だからこそ、一つひとつの小さな行為を大切にし、無駄に難しくしないことが重要なのです。
物事をシンプルに保つための実践法
では、どうすれば私たちは物事をシンプルに保てるのでしょうか?
- 頼まれごとを「感情抜き」で評価する
それは本当に不当か? それとも単純にやってしまえば済むことか? - 小さなタスクに分ける
「面倒だ」と思うのは、漠然と大きな塊に見えているから。小さく区切れば、気軽に取りかかれる。 - 「義務=修行」と捉える
感情を抑えて淡々とこなすこと自体が、精神の鍛錬になる。 - 対立ではなく、秩序を選ぶ
争えば不毛なエネルギーを消耗する。冷静にやるべきことを済ませる方が、はるかに効率的で建設的。
まとめ ― 余計な複雑さを取り除く
人生はもともと厳しく、困難に満ちています。だからこそ、自ら余計な荷物を背負い込む必要はありません。
感情に振り回されて対立を生むよりも、ストア派の教えに従い、シンプルに「やるべきことをやる」。その積み重ねが、自分自身を強くし、心を穏やかにしていきます。
物事をいたずらに難しくせず、秩序正しく務めを果たす――それが、ストレスの多い現代を生き抜くための大切なヒントではないでしょうか。