ベンジャミン・フランクリンの「決断法」──悩んだときは、紙を折って考えろ
「賛成か反対か、どうにも決めかねる。」
人生の中で、そんな場面は誰にでもあります。
重大な選択ほど、感情と理性の間で揺れ動き、なかなか決断できません。
18世紀の哲人ベンジャミン・フランクリンも、まったく同じ悩みを抱えていました。
しかし彼は、その悩みをシンプルかつ実践的な方法で乗り越えたのです。
■紙を半分に折るだけ──“フランクリン式意思決定法”
フランクリンが化学者ジョゼフ・プリーストリーに宛てた手紙(1772年)で紹介した方法は、驚くほど簡単です。
- 紙を半分に折り、左に「賛成」、右に「反対」と書く。
- 3〜4日かけて、思いついた理由をそれぞれの欄に短く書く。
- 時間を置いて冷静に見直し、項目ごとに比較する。
- 「同じ重み」と思えば両方を消す。
- 「賛成1つ=反対2つ」と感じたら、3つとも消す。
- 残った方が、より妥当な選択である。
彼はこれを**「道徳的算術(moral algebra)」**と呼びました。
■数値ではなく、“重み”で考える
フランクリンは、人生の決断は数学のように精密ではないと認めています。
だからこそ、「比較」と「バランス」で判断することが大切だと言います。
「賛否の判断は数学のように精密にはできないが、
区分して比較すれば、軽はずみな判断を避けられる。」
彼は「数値化」ではなく、「思考の可視化」を重視していたのです。
頭の中で考えているうちは、感情が支配します。
しかし紙に書き出すと、思考が客観化され、冷静な判断力が戻ってきます。
■時間をかけて「熟考する」仕組み
この方法のポイントは、「一晩寝かせる」こと。
すぐに決断せず、数日間にわたって新しい理由を書き足していく。
現代の心理学でも、これは非常に合理的です。
脳は時間をおいて情報を“無意識に整理”するため、
一度置くことで直感と理性のバランスがとれるのです。
フランクリンはそれを経験的に理解していました。
「さらに1日か2日考えても、重要な考えが出てこなければ、
状況に応じて決断を下す。」
つまり、「考え尽くした」と思えるタイミングを自分で作るのです。
■感情を抑えるのではなく、“理性を補助”する
フランクリンの意思決定法は、感情を否定しません。
むしろ、感情に振り回されないように理性を助ける“ツール”なのです。
賛成・反対を書き出す過程で、
自分が何を重視しているのかが自然と浮かび上がってきます。
たとえば──
- 「お金」より「信頼」を選びたい
- 「安定」より「成長」を望んでいる
- 「他人の期待」より「自分の納得」を優先したい
こうした価値観の整理こそ、フランクリンが本当に重視していた点です。
■現代でも通用する“紙とペンの思考法”
フランクリンの方法は、いまでもビジネス・教育・心理学の分野で使われています。
「ベンジャミン・フランクリン・クロージング法」という名で、
営業トークや意思決定スキルの教材にも取り入れられています。
また、マインドマップやKPT分析など、現代のフレームワークの原型にも通じます。
彼が18世紀にこの手法を考案していたことは驚くべきことです。
紙とペンさえあれば、誰でも冷静に考えられる。
それが、フランクリンが残した最も民主的な思考術でした。
■まとめ:「理性のリスト」で、後悔しない決断を
フランクリンの決断法は、今の時代でもまったく通用します。
- 紙を折って「賛成・反対」を書く
- 感情ではなく理由を比べる
- 数日おいて冷静に再考する
- 重みを見極め、最終的に残った方を選ぶ
どんな問題も、頭の中だけで考えると堂々巡りになります。
しかし紙に書き出せば、混乱が整理され、理性が戻ってくる。
フランクリンの方法を一言で言えば、こうです。
「考えを整えることが、正しい決断の第一歩である。」
