“不便”こそ発明の母──フランクリンが生んだ遠近両用メガネの物語
「旅行中に、読書と景色の両方を楽しむためにメガネを掛け替えていたが、それが実に面倒でね。」
──ベンジャミン・フランクリン(1785年)
この“ちょっとした不便”を解消するために、彼は世界初の**遠近両用メガネ(bifocals)**を発明しました。
偉大な発明とは、壮大な研究や天才的ひらめきではなく、日常の小さな不便への関心から生まれる──
それがフランクリンの発明哲学でした。
■不便を「我慢」ではなく「改善」で解決する
フランクリンは、旅行中にこう思いました。
「遠くの景色を見たいときは遠近メガネを、
本を読むときは近視用メガネを──
そのたびに掛け替えるのが本当に煩わしい。」
そこで彼は、遠近それぞれのレンズを半分に切り、ひとつのフレームに組み込むというアイデアを思いつきます。
上半分は遠方用、下半分は読書用。
目線を上下するだけで、どちらにもピントが合う。
この発明によって、彼は“メガネを掛け替える不便”を完全に解消しました。
■「自分の困りごと」から出発する創造力
フランクリンの発明の特徴は、どれも生活の不便を出発点にしていることです。
- 家の中が寒い → 「フランクリンストーブ」を発明
- 雷が危険 → 「避雷針」を考案
- 郵便の遅配 → 「郵便システム」を改善
- 夜道が暗い → 「街灯の形状」を工夫
どれも社会を変える大発明ですが、最初の動機はすべて「不便だから何とかしたい」という素朴な感情。
つまり彼にとって発明とは、**“不満を創造に変える技術”**だったのです。
■観察と思いやりが、発明を生む
遠近両用メガネを作ったとき、フランクリンは単に「自分が楽になるため」だけでなく、
人とのコミュニケーションにもその効果を感じていました。
「目の前の料理だけでなく、テーブルの向こうの人の表情までよく見える。
フランス語が苦手でも、相手の表情から意味がわかるようになった。」
つまりこの発明は、“見るための道具”であると同時に、
**“人を理解するための道具”**にもなったのです。
フランクリンにとって技術とは、人を便利にするだけでなく、
人と人をつなぐ橋でもありました。
■「不便を感じる力」こそ、創造の第一歩
フランクリンの発明哲学を現代風に言い換えるなら、こうなります。
「不便に気づくことが、創造の始まりである。」
現代のビジネスやデザインの世界でも、これは**デザイン思考(Design Thinking)**の基本です。
- ユーザーの不便を観察する
- 共感し、課題を定義する
- シンプルなアイデアを試作する
- 使ってみて改善する
フランクリンはこれを18世紀に実践していました。
まさに「人間中心の発明家」だったのです。
■便利さの裏にある“ユーモアと人間味”
フランクリンの文章には、いつもユーモアがあります。
「このメガネのおかげで、料理も見えるし、
話しかけてくるフランス人の顔もよく見える。
おかげでフランス語も上達したよ。」
彼にとって発明とは、“楽しさ”でもありました。
不便を嘆くのではなく、工夫して笑いに変える。
この姿勢こそが、彼を「知性とユーモアの融合者」と呼ばせた所以です。
■まとめ:発明とは「困りごとへの愛情」である
フランクリンが遠近両用メガネを生んだ理由は、特別な才能ではありません。
- 日常をよく観察する目
- 不便を放置しない性格
- 人を思いやるユーモア
この3つが揃えば、誰でも発明家になれる。
彼の人生はその証明です。
「不便を感じることを恐れるな。
そこに、次の発明の種が眠っている。」
