特許よりも公益を選んだ男──フランクリンが語る「発明は世のため」の哲学
「自分が他人の発明で恩恵を受けているのだから、
自分の発明もまた、他人のために使ってもらいたい。」
──ベンジャミン・フランクリン(1742年)
フランクリンがこの言葉を残したのは、
彼が発明した「フランクリン・ストーブ(Franklin Stove)」がきっかけでした。
■燃料を節約し、暮らしを温める新発明
18世紀半ば、冬の北米では暖炉が主流でしたが、
熱効率が悪く、煙が室内に充満するという欠点がありました。
フランクリンはこの不便を解消するために、
部屋を効率的に暖め、燃料を節約できる新型ストーブを考案します。
さらにその構造を詳細に説明したパンフレットを作り、
一般の人々に無償で公開しました。
それが後に“フランクリン・ストーブ”として知られる名発明になります。
■特許を拒否した理由
この発明を高く評価したペンシルヴァニアの知事は、
フランクリンに**数年間の専売特許権(独占権)**を与えようとしました。
しかし、彼はその申し出を断ります。
「自分がこれまでに享受してきた多くの便利な発明は、
他の人々が惜しみなく公開してくれたおかげだ。
だから、私の発明もまた、自由に使ってほしい。」
つまり彼は、知識と技術は共有すべき公共財だと考えていたのです。
■ロンドンの金物屋に特許を取られても、争わない
その後、ロンドンの金物職人がフランクリンのパンフレットをもとに
少し改良を加えて特許を取得し、利益を得ました。
それを知ったフランクリンの反応は──驚くほど穏やかでした。
「彼らと争うつもりはない。
私は特許で儲けようという気持ちはないし、
争いごとが嫌いだからだ。」
彼にとって大切だったのは発明そのものが社会に広がり、人々の生活を良くすることであり、
名声や利益ではありませんでした。
■“利他の発明家”としての生き方
フランクリンの発明の多く──避雷針、遠近両用メガネ、フランクリンストーブ──は、
いずれも特許を取らずに自由に使えるようにしました。
これは、現代でいう「オープンソース」の思想に近いものです。
彼はこう信じていました。
「知識とは、分かち合うことで増えていくものである。」
だからこそ、彼の発明は「個人の所有物」ではなく「社会の財産」として残り続けているのです。
■「発明の価値」は社会への貢献で決まる
フランクリンにとって、発明の価値は特許や利益額ではなく、
どれだけ社会の役に立つかで決まりました。
「発明は、世のため人のためにある。
利益を生むためだけのものではない。」
この考え方は、現代の**社会的イノベーション(Social Innovation)**の核心そのものです。
たとえば今日の「オープンアクセス」「コモンズ」「共有経済」の思想は、
フランクリンの実践から始まったと言っても過言ではありません。
■争いよりも、共有を
もしあなたが新しいアイデアや技術を思いついたとき、
それを独占するのではなく、共有するという選択肢もあります。
フランクリンが教えてくれるのは、
**「知の独占は進歩を止めるが、共有は文明を進める」**という真理です。
「私は他人の知恵によって学び、
他人は私の知恵で助かる。
それで世界は少しずつ良くなる。」
■まとめ:発明とは、社会への贈り物
フランクリンの発明哲学を一言で表すなら、こうです。
- 発明は、社会を便利にするためにある
- 特許よりも公益を優先せよ
- 知は分かち合うことで真の価値を持つ
「発明の真価は、どれだけの人を幸福にしたかで決まる。」
フランクリンの精神は、
現代のテクノロジー企業や研究者にとっても、
普遍的な指針であり続けています。
