「物事に腹を立てるのをやめよ。物事のほうではそんなことお構いなしなのだから。」
これはローマ皇帝であり哲学者でもあったマルクス・アウレリウスが『自省録』に記した一節です。日々の生活の中で腹立たしい出来事に遭遇するのは誰にでもあります。しかし、怒りや不満を抱いても、外部の出来事はそれに何の関心も示しません。
他者からの引用に満ちた『自省録』
『自省録』はマルクス自身の思索だけでなく、古代の哲学者や文学者からの引用に満ちています。彼は「独創的な文章を書く」ことよりも、「哲学を生きる」ことを重視していたのです。
今回の言葉も、悲劇作家エウリピデスの戯曲から引用されたものです。その戯曲は多くが失われていますが、残された断片から登場人物ベレロポンテスのセリフが伝わっています。
「われわれよりはるかに大きな原因や力に対して、なぜ腹を立てようと思うのか?
外的な出来事というのは感覚をもたない。泣き叫んでも、聞いてもらえる望みはない。」
外部の出来事は無関心である
私たちが怒ったり泣いたりしても、外の世界は何も変わりません。天気は人間の都合を気にかけず、病気は誰かの善意や努力を顧みません。社会の出来事もまた、私たちの感情に合わせて調整されることはありません。
それでも私たちはしばしば「怒れば状況が変わる」と思い込みます。ですが現実には、変わるのは「状況」ではなく「自分の心の状態」だけです。
問題は「出来事」ではなく「反応」にある
ストア哲学が強調するのは、「外部の出来事はコントロールできないが、自分の反応はコントロールできる」という点です。
- 雨が降ることは止められないが、傘を差すかどうかは自分次第
- 相手の態度を変えることはできないが、それに怒るか受け流すかは選べる
- 予期せぬ不運は避けられないが、それを「試練」と捉えるか「絶望」と捉えるかは自由
結局のところ、人生の質を決めるのは出来事そのものではなく、それに対する私たちの反応なのです。
感情に支配されないための実践法
- 感情をラベルづけする
「いま私は怒っている」「不安を感じている」と言葉にして、感情と距離をとる。 - 外部と内部を区別する
「これは自分で変えられることか? それとも変えられないことか?」と問う。 - 短い間を置く
反応する前に深呼吸や短い沈黙を挟む。衝動的な行動を避けられる。 - 長期的な視点を持つ
一年後にこの出来事は重要か? 多くのことは時間とともに些細なものになる。
まとめ ― 無関心な世界にどう向き合うか
外部の出来事は、私たちの感情など気にかけません。騒ぎ立てても、現実は冷淡に流れていきます。
だからこそ大切なのは、状況を変えようと感情を爆発させることではなく、自分の反応を選び取る冷静さです。
マルクス・アウレリウスが自らに言い聞かせたように――
「物事に腹を立てるのをやめよ。物事のほうではそんなことお構いなしなのだから。」
次に不条理に感じる出来事があったとき、この言葉を思い出してみてください。あなたの心は、より自由で平静に保たれるはずです。