『休息する技術』書評:働きすぎて疲れが抜けない人に贈る“脳と体の休ませ方”
『休息する技術』書評:働きすぎて疲れが抜けない人に贈る“脳と体の休ませ方”
「休日は寝て過ごしているのに、疲れが取れた気がしない」
そんな感覚に心当たりがある人は少なくないでしょう。
脳神経外科医・菅原道仁氏による『休息する技術』(アスコム刊)は、
“休むのが下手な人”に向けて、正しい休息の方法を科学的に教えてくれる一冊です。
著者は長年、救急医療と脳の臨床現場に立ち続けてきた医師。
多忙な現代人の「疲れが抜けない」理由を、医学的根拠に基づいて明快に解き明かしています。
疲れには3種類ある:まずは「自分の疲れ」を見極めよう
本書の最大の特徴は、疲れを単純な「体の疲れ」ではなく、
次の3つの要素に分類して考える点です。
- 自律神経の疲れ
ストレスや不規則な生活で自律神経のバランスが乱れるタイプ。 - 心の疲れ
人間関係やプレッシャーなど、精神的ストレスが原因。 - 体の疲れ
筋肉や関節の使いすぎ、運動不足などによる肉体的疲労。
「なんとなく疲れている」という曖昧な感覚を、
この3つのカテゴリーで整理することで、自分に合った休み方が明確になります。
本書にはチェックシートもあり、
「どのタイプの疲れが強いのか」をセルフ診断できる点も実用的です。
“寝るだけでは回復しない”という真実
多くの人は「休む=寝る」と考えがちですが、
著者はそれを“受け身の休息”=パッシブレストと呼びます。
一方で現代人にこそ必要なのが、
体を適度に動かしながら疲労を回復させる**アクティブレスト(積極的休息)**です。
アクティブレストの例として本書が挙げるのは、
ウォーキング・ストレッチ・軽い運動に限らず、
「友人と食事に行く」「趣味のイベントに参加する」といった、
心が動く活動も含まれます。
つまり、「体を動かす=運動」ではなく、
「心と体を“ほぐす”行動」こそが真の休息。
運動が苦手な人でも取り入れやすい点が本書の魅力です。
自律神経を整える「1分間瞑想」
著者が特に推奨しているのが、短時間の瞑想。
椅子に座って背筋を伸ばし、ゆっくりと腹式呼吸をする——。
それだけで交感神経と副交感神経のバランスが整い、
心が落ち着いてくるのを感じられるはずです。
忙しい人こそ、1分でも構いません。
「何もしない時間」を意識的に取ることが、
脳の“回復スイッチ”を入れるきっかけになるのです。
スマホを置いて、深呼吸。
これを1日1回続けるだけでも、疲労感は確実に変わります。
「モンキーマインド」を鎮める:頭の中の猿との付き合い方
本書では、考えすぎや情報過多によって脳が常に働き続けている状態を、
「モンキーマインド」と表現します。
次々と浮かぶ思考を止められないと、
脳のエネルギーは常に消耗され、自律神経の乱れにつながります。
著者はこの状態を改善する方法として、
「頭の中で騒ぐ猿(雑念)」に名前をつけるというユニークなアプローチを紹介しています。
「また“焦り猿”が出てきたな」と俯瞰して見ることで、
自分の思考と感情を切り離し、冷静さを取り戻すことができるのです。
この“距離をとる思考法”は、マインドフルネスに通じるシンプルな技術です。
「働きすぎ」から抜け出す休憩のルール
人の集中力は、45〜50分で限界を迎えるといわれています。
菅原氏は、仕事の効率を上げるためにも「15分ごとに小休憩」「1時間ごとに深呼吸やストレッチ」を推奨しています。
一見“仕事を中断しているように見える”この行動が、
実は脳を再起動させる最も効率的な休息法なのです。
休むことに罪悪感を持つ必要はありません。
むしろ、上手に休める人こそが、長く成果を出し続けられる人です。
書評まとめ:休む技術は「生きる技術」
『休息する技術』は、「頑張る力」ではなく「緩める力」を鍛えるための本です。
疲れを無視して走り続けている人にとって、
この一冊は**“人生のペースを取り戻す処方箋”**になるでしょう。
読後には、
「自分に合った休息を選ぶ」という意識の変化が生まれます。
- 疲れを3種類に分類して理解する
- 体と心を動かす“アクティブレスト”を実践する
- 1分の瞑想で自律神経を整える
この3つを意識するだけで、毎日の疲れ方が変わる。
本書は、そんな“小さなリセット”を積み重ねるための指南書です。
「頑張ること」よりも「休むこと」が難しい時代。
自分を責めずに、正しく休む——
それこそが、これからの働き方を支える“新しい技術”なのです。
