『仕事の「判断ミス」がなくなる脳の習慣』書評:脳科学が教える“正しい決断”の磨き方
『仕事の「判断ミス」がなくなる脳の習慣』書評:脳科学が教える“正しい決断”の磨き方
「なぜ、あのとき別の選択をしなかったのか——」
そんな後悔をした経験、誰にでもあるのではないでしょうか。
脳内科医でありMRI脳画像診断の専門家でもある加藤俊徳氏による『仕事の「判断ミス」がなくなる脳の習慣』(クロスメディア・パブリッシング刊)は、
脳の仕組みをもとに「判断ミスを減らすための思考法」をわかりやすく教えてくれる一冊です。
本書の主題は、「判断には明確な基準が必要だ」という一点に尽きます。
感情や過去の経験に流されず、未来を見据えて判断する力を養うことが、本書の狙いです。
判断には「4つの段階」がある
著者によると、私たちが何かを決めるときには、脳内で以下の4段階を経ています。
- 知覚・認知
- 感情・欲望
- 理解・記憶・分析
- 判断・選択・実行
一見シンプルですが、このどの段階にも“判断ミスの罠”が潜んでいます。
たとえば、視覚情報だけで物事を判断してしまうと、
「サンプルを本物だと思い込む」ような誤認が起きます(知覚のミス)。
また、感情や欲望に流されると、理性的な判断ができません(感情のミス)。
さらに、過去の経験や思い込みが強すぎると、
「昔はこうだったから今回も大丈夫」といったバイアスによる判断ミスが生じます。
つまり、判断とは脳内で情報・感情・記憶が複雑に絡み合うプロセスであり、
そのどこかに“ノイズ”が入るだけで、的確な結論が出にくくなるのです。
思考を曇らせる「ノイズ」を減らす
著者は、判断を誤らせる原因を「思考のノイズ」と呼びます。
たとえば上司から「来週までにレポートを出して」と言われたとき、
目的に集中できる人は冷静にスケジュールを立て、必要な情報を整理します。
一方、「なぜ自分に任されたのか」「上司は自分を信頼しているのか」など、
関係のない考えに囚われてしまう人は、判断を誤りがちです。
この“思考のノイズ”を減らす最も効果的な方法は、
判断の目的を明確にすること。
「何のために判断するのか」「何を最優先にするのか」を意識するだけで、
脳のエネルギーが本質的な部分に集中し、判断の精度が高まります。
「未来」を基準に判断する
本書で最も印象的な提言は、
「過去ではなく未来を基準に判断せよ」
という考え方です。
多くの人は過去の経験や成功体験を基準に判断しがちですが、
現実は常に変化しています。
過去の基準に頼るほど、時代の変化に対応できなくなる——
これが、判断ミスの根本的な原因です。
著者はその対極として、未来から逆算する判断法を推奨します。
たとえば、大谷翔平選手が高校時代に作成した「目標達成シート(まんだらチャート)」のように、
「最終ゴール(未来)」を中心に据え、そこから「今やるべき行動」を明確にする。
未来を軸に考えることで、判断に一貫性が生まれ、
「今この選択が本当に必要か?」を冷静に見極められるようになるのです。
判断ミスを減らすための2つの習慣
本書では、判断力を高める具体的な方法が紹介されています。
中でも、すぐに実践できる2つを紹介します。
① 自分の「判断基準」を言語化する
日々の業務の中で、判断を要する場面は数え切れません。
あらかじめ自分の中にルールを設定しておくと、迷いが減ります。
たとえばメール対応なら、
- チェックは1日2回に限定
- 返信の優先順位を「即対応・後回し・保留」に仕分け
- 口頭で決めた内容は必ずメールで記録
このように明文化することで、判断の再現性が高まります。
② 寝る前に「判断の振り返り」をする
一日の終わりに、その日の判断を3つほど思い出してみましょう。
「今日のあの決断は正しかったか」「別の選択肢はあったか」——。
紙に書き出すことで、
自分の判断の傾向や弱点(早すぎる、感情的、慎重すぎるなど)が見えてきます。
こうした“自己観察”の習慣こそが、判断ミスを減らす第一歩です。
判断力とは「脳の使い方」である
加藤氏は脳科学の専門家として、
「判断ミスは能力の問題ではなく、脳の使い方の問題」だと強調します。
脳は使い方次第で一生成長する器官。
だからこそ、振り返りと目的意識をもって日常の判断を積み重ねることが、
脳の“判断回路”を鍛える最良の方法なのです。
書評まとめ:迷いが減ると、仕事が速くなる
『仕事の「判断ミス」がなくなる脳の習慣』は、
判断ミスを叱責する本ではなく、
「どうすれば冷静に判断できる脳をつくれるか」を丁寧に教えてくれる実践書です。
本書から得られる最大の教訓は、
判断力は、過去ではなく未来を基準に育てるものである。
日々の小さな判断を積み重ねていくことで、
迷わず、後悔しない決断ができる自分へと変わっていく——。
そんな“脳のトレーニング法”を学べる一冊です。
