『志を育てる』に学ぶ、ブレないリーダーの条件──グロービス流「志」の磨き方
「何のために働くのか」を見失ったときに読む本
――『志を育てる』が教える、リーダーの原点
景気が右肩上がりだった時代には、会社の昇進や年功序列の中で自然と「やりがい」や「目標」が見えていました。
しかし、変化の速い現代では、“働く意味”を自分で見つけなければなりません。
グロービス経営大学院の研究チームがまとめた『志を育てる』は、まさにこの「志(こころざし)」というテーマを掘り下げた一冊です。
企業の経営者、社会起業家、NPO代表など、32名へのインタビューから導き出された共通の法則をもとに、**「志はどう生まれ、どう成長するのか」**を明らかにしています。
「志」とは何か?――人生をかけてコミットできること
本書では、「志」を次のように定義しています。
一定の期間、人生をかけてコミットできるようなこと。
つまり「一生の夢」ではなく、2〜5年ほどのスパンで全力で向き合える“中期的な目標”。
それを積み重ねることで、やがて“大志”につながっていくという考え方です。
最初から崇高な目的を持つ人はほとんどいません。
小さな志の実践こそが、自分を育て、社会を動かす力になるのです。
志は「5つのフェーズ」を経て成長する
調査の結果、どんな人の志も、次の5つの段階をらせん状に繰り返しながら成長していくことが分かりました。
- 達成への取り組み – 目標に向けて行動を始める
- 取り組みの終焉 – ある目的が一区切りを迎える
- 客観視 – 自分の活動を振り返り、意味を考える
- 自問自答 – 「本当に自分がやりたいことは何か」を問う
- 新たな目標設定 – 次の志を見つけ、再び行動を始める
このサイクルを重ねることで、志はより深く、より社会的なものへと進化していきます。
まるで「らせん階段」を上るように、私たちは経験を通じて志を磨いていくのです。
志を育てる2つの軸:「自律性」と「社会性」
本書の中で特に印象的なのが、志の成長には“方向性”があるという指摘です。
それが「自律性」と「社会性」という2つの軸です。
● 自律性:自分の規範をもとに選択する力
自分の価値観に基づいて決断し、リスクを取って前に進む姿勢。
他人や会社に依存せず、「自分で選び、自分で責任を取る」ことが自律性です。
● 社会性:他者や社会への貢献を意識する力
志が成熟していくほど、「自分のため」から「誰かのため」へと視点が広がっていきます。
自分一人の成功ではなく、チーム・社会の幸福を願う志へと変わっていくのです。
この2つの軸を伸ばすことが、リーダーとしての本当の成長につながります。
志の成長を描く、2つの実例
【Case 1】 研究者から経営者へ──“社会に役立つ技術”を届けたい
ナノフォトン株式会社 代表取締役社長・中原林人氏のキャリアは、まさに「志の成長」を体現しています。
JAXAで研究をしていた頃、彼は「自分の研究が社会の役に立っている実感がない」と感じていました。
そこから転職し、技術者として現場で人の役に立つ商品開発に挑戦。
さらに経営大学院で学ぶ中で「技術を通して社会を変える」という志に目覚め、ベンチャー企業の経営者へと転身しました。
この変化の背景には、「研究者としての志」から「社会を動かす志」へと進化した、自律性と社会性の拡大が見て取れます。
【Case 2】 災害ボランティアの女性が見つけた「生きる意味」
もう一人は、阪神・淡路大震災をきっかけに人生を一変させた金田真須美氏。
震災で全てを失った彼女は、自らも被災者でありながら、他の被災者を支援する活動を始めました。
「自分のためではなく、人のためにできることをしたい」という思いが、彼女の新しい志を育てました。
支援活動を続ける中で、何度も迷い、軌道修正をしながらも、**「自分らしく生きる」**という信念を貫いています。
彼女の言葉が象徴的です。
「この船の行き先は何度も変わるかもしれない。でも、船に乗ったこと自体への後悔はない。」
志は完成された目標ではなく、生きながら育つものなのです。
志がリーダーを成長させる理由
本書では、志がリーダーシップに与える3つの力を挙げています。
- 困難を乗り越える精神的支えになる
→ 苦境に立ったとき、「なぜ自分はこれをやっているのか」が心の支柱になる。 - 周囲を巻き込む推進力になる
→ 志を語るリーダーの言葉は、人を動かす。目的を共有できる仲間が集まる。 - 学びと成長の原動力になる
→ 志を持つことで、学ぶ意欲や挑戦心が自然と湧く。
志が明確な人ほど、ブレずに決断でき、チームを導く力が強い――。
グロービスが長年のリーダー教育で培ってきた知見が、この1冊に凝縮されています。
「志」を持つことがキャリアの軸になる
本書を読むと、「志」とは遠い理想ではなく、日常の選択の積み重ねだと気づかされます。
いま取り組んでいる仕事、挑戦しているプロジェクトに対して、
「それは誰のため?」「なぜ自分がやるのか?」を問い直すこと。
その小さな自問自答が、次のステージへとつながる“志の芽”なのです。
■ こんな人におすすめ
- 自分の仕事に意味を見失っている
- リーダーとしての軸を持ちたい
- キャリアの方向性に迷っている
- 部下やチームを導く立場にある
