『罰ゲーム化する管理職』レビュー|誰もやりたくない管理職を救う4つの修正法
「管理職は罰ゲーム」になっていないか?
――『罰ゲーム化する管理職』が描く、現代組織のバグと修正法
近年、「管理職になりたくない」と口にする若手社員が増えています。
パーソル総合研究所の調査によると、日本で「管理職を目指したい」と答えた人の割合はわずか 21.4%。14カ国中、最下位です。
一体なぜ、ここまで“リーダー”という役割が忌避されるようになってしまったのか。
その背景をデータと社会学の視点から解き明かすのが、小林祐児氏による『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(集英社インターナショナル)です。
本書は、単なる「上司かわいそう本」ではありません。
構造的なエラー=“組織のバグ”を分析し、管理職という仕組みそのものを再設計するための実践的なヒントが詰まっています。
■ なぜ「管理職=罰ゲーム」になったのか?
「朝から晩まで会議」「夜からが“自分の仕事”」「部下のメンタル不調でチームが常に欠けている」…。
これが、今の管理職の日常です。
かつての“出世レール”は、今や 「責任だけ重く、裁量も報われもない」ポスト になりつつあります。
さらに深刻なのは、社会的共感の欠如。
部下より給与が高いという理由で「つらい」と言えず、労働組合にも相談できず、孤立したまま疲弊していく。
著者はこれを「社会的不可視化された苦労」と呼び、放置すれば企業の競争力そのものを失うと警鐘を鳴らします。
■ 「筋トレ発想」という罠
多くの企業が誤っているのが、「管理職研修を増やせば解決する」という“筋トレ発想”。
「スキルが足りないからだ」「もっと頑張ればいい」と、管理職個人の努力に責任を押し付けてしまうのです。
結果、研修は増えるのに、現場の疲労感はさらに増大。
部下は「こんな上司になりたくない」と感じ、管理職志望者はますます減っていく。
――この悪循環を断ち切るために、著者は 4つのアプローチ を提案します。
管理職の罰ゲーム化を直す「4つの修正法」
① フォロワーシップ・アプローチ
― 部下教育を“上司の仕事”にしない
管理職にばかり「フィードバック力を高めろ」と言っても、部下がその受け方を知らなければ意味がありません。
ここで必要なのは、メンバー側へのトレーニング です。
たとえば、
- フィードバックの受け止め方
- チーム内でのコミュニケーション・リテラシー
- 双方向の報連相スキル
といった教育を部下にも施す。
「上司が学んでいることを、部下も知っている」状態をつくることがポイントです。
つまり、マネジメント研修を**“両者の共通言語”**に変えるのです。
② ワークシェアリング・アプローチ
― 管理職の“抱え込み構造”を変える
管理職の過労は、個人の問題ではなく 設計の問題。
著者は「役割の再分配」という視点から、次の3軸で解決策を示します。
- ベース施策:部下人数や承認フローの見直し
- デリゲーション施策:権限移譲を明文化
- エンパワーメント施策:部下に小さなリーダー体験を与える
「全部自分で抱える上司」を生まないためには、構造を変えるしかありません。
アウトソーシングや自動化も、ここに含まれる“制度的支援”です。
③ ネットワーク・アプローチ
― 管理職同士を「つなぐ」
孤独な上司を減らすには、横・縦・外の3方向のネットワークづくりが必要です。
- 水平型:部門を超えたマネジャー懇談会・ワークショップ
- 垂直型:上位管理職や役員によるメンタリング
- 越境型:社外コミュニティ・大学院・他社交流
社内の閉じた関係だけでは、管理職の悩みは共有されません。
「他の会社でも同じなんだ」と気づけるだけで、心の負担は大きく減るのです。
組織開発の観点からも、ネットワーク構築は最大の投資効果を生む施策だと著者は指摘します。
④ キャリア・アプローチ
― 出世一択のキャリアをやめよう
管理職にならないと昇給しない、評価されない――。
この構造そのものが、罰ゲーム化を助長しています。
著者が提唱するのは、“二層キャリア構造”。
- 将来の経営層候補に対しては「健全なえこひいき」で早期育成
- 管理職候補外の人には「専門領域型リーダー」としてのキャリアを設計
つまり、「マネジメントをしない=出世できない」ではなく、
専門職としてのマネジメント力を評価する制度を整えることが必要です。
これにより、組織は多様なリーダーを抱えることができるようになります。
■ 管理職は“ラスボス”ではなく“被害者”
本書の印象的な言葉があります。
「管理職の罰ゲームにはラスボスがいない」
つまり、悪意を持って“管理職を苦しめている誰か”がいるわけではないのです。
複雑な構造、曖昧な責任範囲、評価の仕組み――。
それらのバグが累積して、今の悲劇を生んでいる。
だからこそ、「誰かを責める」のではなく「仕組みを修正する」ことが必要なのです。
■ 読後に感じるのは、“希望”である
データに裏打ちされた厳しい現実が並ぶ一方で、本書のトーンは決して悲観的ではありません。
むしろ、「構造は変えられる」という確信に満ちています。
- 「管理職研修」ではなく「組織構造の再設計」へ
- 「努力」ではなく「仕組み」で救う
- 「上司のスキルアップ」ではなく「全員のリテラシー共有」へ
これは、管理職だけの問題ではなく、すべての働く人の問題です。
■ こんな人におすすめ
- 管理職として疲弊を感じている人
- 部下育成に悩むリーダー層
- 組織の“構造疲労”を感じる経営者・人事担当者
- 「出世したくない若手」の心理を理解したい人
