『マウントを取らずにはいられない人』を読む|人を見下す心理とその正しい距離の取り方
『マウントを取らずにはいられない人』を読む:見下しの裏にある「不安」と「嫉妬」の正体
誰もが一度は「マウントを取られた」と感じたことがあるのではないでしょうか。
「昔はもっとすごい案件を担当していてね」
「それくらい、うちの部署なら常識だよ」
そんな何気ない一言に、イラッとした経験がある人は多いはずです。
精神科医・片田珠美さんの著書『マウントを取らずにはいられない人』(草思社)は、
そんな“見下す人”の心理を丁寧に読み解く一冊です。
本書を読むと、「なぜあの人はいつも張り合ってくるのか」というモヤモヤの背景が、スッと腑に落ちていきます。
マウントとは「優位に立ちたい不安」の表れ
著者によると、マウント行為の根底には「不安」と「劣等感」があります。
人は本当に自信があるとき、他人と比べる必要がない。
逆に、自分に不安がある人ほど、他者を下げて安心しようとするのです。
この構造を理解すると、マウントを取る人に腹を立てる気持ちが少し和らぎます。
「あぁ、この人は今、心の中で不安と戦っているんだな」と思えるようになる。
相手の言葉に振り回されず、冷静に距離を取ることができるようになります。
職場に潜む「否定マウント」「前職マウント」
本書で特に印象的なのは、職場でのマウンティング事例の数々です。
1. 否定マウント
どんな意見も「それじゃダメだ」と否定する上司。
部下の提案を自分の手柄にすり替えるタイプも少なくありません。
この裏には「自分の立場を脅かされたくない」という心理が潜んでいます。
対処法は、事実を冷静に記録して残すこと。
発言の日時や内容をメモ・メール・議事録として残し、感情的に反論せず“証拠で守る”姿勢が有効です。
2. 前職マウント
「前の会社ではこうしていた」「大学病院では常識だった」と、自分の過去を誇示するタイプ。
この背景には「現職で認められない焦り」があります。
対応のコツは、「そうした経験をお持ちなんですね」と一度認めた上で、現状の課題に話を戻すこと。
相手の承認欲求を適度に満たしながら、会話の主導権を取り戻します。
家庭での「不機嫌マウント」——沈黙で支配する人
本書は職場だけでなく、家庭で起きるマウントにも切り込みます。
たとえば、配偶者が不機嫌になって黙り込み、相手が折れるのを待つ「不機嫌マウント」。
このような“沈黙による支配”は、心理学で**パッシブ・アグレッション(受動的攻撃)**と呼ばれます。
怒りを言葉にせず、態度で表して相手をコントロールする行動です。
不機嫌マウントに対しては、
「相手の機嫌を取らず、必要なことだけ冷静に伝える」
ことがポイントです。
相手の感情に振り回されないために、自分の立場を自覚し、言葉で意思を示すことが大切。
「拒絶過敏性」がマウントの根にある
マウントを取る人の多くには、「拒絶過敏性(rejection sensitivity)」という特徴が見られると著者は指摘します。
これは、わずかな批判や反論にも強く反応し、「自分が否定された」と過剰に感じてしまう傾向のこと。
そのため、部下の意見や他人の成功に対しても敏感に反応し、攻撃的になってしまうのです。
このタイプに対しては、“枕詞”で柔らかく伝えるのが効果的。
たとえば、
「一般論としてですが…」「少し視点を変えて考えると…」
といった前置きを使うことで、相手の防御反応をやわらげながら話を進められます。
自分が「マウントを取りたくなった」ときの対処法
人間は誰しも、優位に立ちたい気持ちを抱くもの。
だからこそ、「自分がマウントを取りたくなった」瞬間に気づく力が大切です。
著者は次の3つのステップをすすめています。
- 感情を言語化する
嫉妬・焦り・劣等感などをノートに書き出してみる。 - 価値観を広げる
「出世=成功」といった固定観念を手放し、多様な生き方を認める。 - 距離を取る
どうしても比較してしまう環境から離れる勇気を持つ。
マウントを取る・取られる関係性から抜け出すには、
「勝ち負けで人を測らない」自分の軸を育てることが何よりの近道です。
まとめ:マウント合戦から降りる勇気を持とう
『マウントを取らずにはいられない人』は、
他人との“見えない競争”に疲れた現代人の心をほぐす一冊です。
マウントを取る人の背景には、傷つきやすさや孤独がある。
その構造を理解するだけで、私たちは「怒る側」から「観察する側」へと変わることができます。
人間関係のストレスを減らすコツは、勝ち負けの土俵から一歩降りる勇気。
それこそが、本当の意味で「強くて優しい人間関係」を築く第一歩です。
💡こんな人におすすめ
- 職場のマウント上司や同僚に悩んでいる
- SNSでの「マウント投稿」に疲れている
- 自分もつい張り合ってしまう癖を直したい
