背景 ― 筋と筋膜、どちらが痛みを発しているのか?
筋筋膜性疼痛(Myofascial Pain Syndrome: MPS)の名称からも分かるように、痛みの発生源は筋肉だけでなく筋膜も関与すると考えられています。
しかし、実際に患者が感じている痛みが「筋由来なのか、筋膜由来なのか」を区別することは容易ではありません。
この疑問に対し、ドイツの研究グループが健常ボランティアを対象に行った実験が報告されています。
研究概要
対象:健常成人12名(腰痛既往や服薬歴、手術歴のある者は除外)
方法:L3/4高位にて、超音波ガイド下で以下の部位に5.8%高張食塩水を投与。
- 皮下組織
- 胸腰筋膜
- 筋膜直下10mmの脊柱起立筋
評価項目:
- 痛みの強さ(Numerical Rating Scale)
- 痛みの範囲(Body image マッピング)
- 痛みの質(Pain Perception Scale, SES)
主な結果
① 痛みの強さと広がり
- 筋膜への投与では 筋や皮膚よりも痛みが強く、広範囲に拡大。
- 筋の痛みは比較的局所的で強度も低い。
② 痛みの質(感覚的表現)
- 筋膜と皮膚:**「灼けるような」「刺すような」**といった表現が多い
- 筋:**「ずきんずきんする」**など深部痛の表現が多い
👉 感覚的SESスコア:筋膜≒皮膚>筋
③ 痛みの質(感情的表現)
- 筋膜:**「耐えられない」「死ぬほどつらい」**といった情緒的スコアが最も高い
- 皮膚:中間的
- 筋:最も低い
👉 感情的SESスコア:筋膜>皮膚>筋
臨床的意義
この研究結果から、次のことが示唆されます。
- 筋膜は筋よりも強い痛みを広範囲に生じさせる
- 患者の痛み表現を注意深く聞くことで、発生源を推測できる
例:
- 「ずきんずきんする」=筋由来の痛みを示唆
- 「灼けるよう」「刺すよう」「耐えられない」=筋膜由来の痛みを示唆
まとめ
- 筋膜の痛みは筋よりも強く、広く、情緒的負担も大きい
- 痛みの言語表現を分析することで、治療ターゲットを筋か筋膜か見極められる可能性がある
- 臨床評価では、問診で患者の「痛みの言葉」を丁寧に拾い上げることが重要