「自己とは自分だけのことではない」—新渡戸稲造『人生読本』に学ぶ、“つながり”を意識した生き方
「自己」とは、自分ひとりの存在ではない
新渡戸稲造の『人生読本』に、次のような一節があります。
「自己とは自分一人だけのことではない。
妻子、父母をはじめとして、友人、同国人、隣国人、そして世界の人々をも含んでいると考えたほうがいい。」
この言葉には、「人は他者との関係の中でこそ“自己”が成り立つ」という新渡戸の哲学が凝縮されています。
現代では「自分らしさ」や「個性」という言葉が重視されますが、
新渡戸はあえて「自己とは他人を含むものだ」と説くのです。
それは、人間は社会的な存在であり、他人との関わりの中でしか生きられないという真実に基づいています。
人は誰かの支えの中で生きている
新渡戸はこうも述べています。
「人はこの世に生まれた瞬間から、他人の世話にならなければ生きていけない動物だ。」
確かに、私たちは一人で生きてきたようで、実際には常に誰かに支えられています。
生まれてからは親の手を借り、学ぶ時期には教師がいて、社会に出れば同僚や上司がいる。
家庭を持てば、家族が自分の生を支えてくれます。
つまり、「一人で頑張ってきた」と思っている人でさえ、
実は無数の他者の支えの上に立っているのです。
この現実を忘れてしまうと、人は簡単に傲慢になり、孤立してしまいます。
だからこそ新渡戸は、「自己=他者を含むもの」と定義したのです。
「自己中心」ではなく「他者共存」の自己へ
現代社会では、「自分を大切にする」「自分らしく生きる」という言葉がよく使われます。
もちろんそれは大切なことです。
しかし、それが行き過ぎると「自分さえよければいい」という自己中心的な考え方に変わってしまう危険もあります。
新渡戸の言葉は、そのバランスを取り戻すための警鐘です。
「自己をただ自分一人などと考えるのは大きな間違いだ。」
つまり、本当の意味で“自分を大切にする”とは、他人を含めて自分を考えること。
家族、友人、地域、そして社会全体に自分がどう関わっているかを意識することなのです。
これはまさに、現代でいう「サステナビリティ(持続可能性)」や「共生」の精神にも通じます。
他者を思うことで、自分も豊かになる
「自己とは他人を含むもの」と考えると、不思議と心が穏やかになります。
なぜなら、他人の幸せや成長を喜べるようになるからです。
家族の笑顔、同僚の成功、地域の発展…。
それらを“自分ごと”として感じられるとき、
自分の存在は孤立した点ではなく、「つながりの中の一部」として輝き始めます。
そしてそのときこそ、**「本当の自己実現」**が始まるのです。
新渡戸が言う「自己」とは、他人との関係の中で成熟していく“社会的な自己”なのです。
現代社会における「自己拡張」のすすめ
心理学では「自己拡張理論」という考え方があります。
これは、“他者との関係を通して人は成長する”という理論です。
まさに新渡戸稲造が100年以上前に説いた「自己とは他人を含むもの」と同じ思想です。
誰かを思いやること、支え合うこと、他人のために行動すること。
それは「他人のため」だけでなく、最終的には自分を成長させる行為でもあります。
孤立しやすい現代社会だからこそ、
この「つながりの中で生きる自己」の感覚を取り戻すことが、心の安定と幸福につながるのです。
まとめ:他人を含んでこそ、「自己」は完成する
新渡戸稲造の『人生読本』に込められたメッセージは、今も変わらず響きます。
- 人は他人の助けなしには生きられない
- 自己とは、自分だけでなく他人を含む存在
- 「自分を大切にする」と「他人を思いやる」は矛盾しない
- つながりの中でこそ、人は成長する
孤独を感じやすい時代にこそ、
「自己=他者を含むもの」という新渡戸の思想を心に置いてみてください。
その瞬間から、あなたの世界は少し優しく、そして豊かに変わっていくはずです。
