自己啓発

人から褒められることを目的にするな──新渡戸稲造『修養』に学ぶ、誠実な行動の源泉

taka

若き日の新渡戸が気づいた「名誉の限界」

新渡戸稲造は『修養』の中で、正直な告白からこの章を始めています。

「私は十四、五歳のころまでは、人生の目的は名をあげることにあると思っていた。」

この一文には、等身大の若き新渡戸の姿が見えます。
彼は、少年期には“世の中で有名になること”こそ人生の成功だと信じていました。

しかし、十六歳で宗教的な心が芽生えたとき、
「名誉を得ることが本当に善なのか?」という疑問が生まれます。

「名をあげて世間的な名誉を得ることは絶対的な善ではないと考えるようになった。」

この気づきこそが、新渡戸稲造という思想家・教育者の出発点でした。


行動の動機を「他人の評価」から「内なる誠実」へ

新渡戸は、行動する前に常に自問していたといいます。

「これは人に褒められたいからするのではないのか?」

この問いは非常に鋭く、私たち現代人にも突き刺さるものです。
SNSや評価社会の中で、私たちは知らず知らずのうちに「どう見られるか」を基準に行動してしまいます。

しかし、新渡戸はそのような動機を“修養の敵”と考えました。
なぜなら、人に褒められるための行動は、
**「自分の心に対して誠実ではない」**からです。


褒められることを目的にすると、行動が濁る

誰かに認められたい、褒められたいという気持ちは、自然な人間の欲求です。
しかし、それが行動の「中心」になると、途端にその行為の純粋さが失われます。

たとえば、

  • 善い行いをしても、褒められなければ不満に思う。
  • 評価を気にして、行動の基準が他人次第になる。
  • 自分の良心よりも、周囲の目を優先してしまう。

こうして行動は「偽りの善」になり、
本来の誠実さや真心が曇ってしまうのです。

新渡戸は、まさにこの「名誉心の罠」を三十年以上、自戒し続けたと述べています。

「このように名誉心に駆られて行動することは、私がこの三十余年にわたり最も自戒してきたことなのだ。」


真の善行は「人に知られずに行うもの」

新渡戸稲造が尊んだのは、誰にも見られていなくても正しいことを行う心です。
これは、彼の信じた「武士道」や「キリスト教倫理」とも共通しています。

“善”とは、人に評価されるための手段ではなく、
自分の内なる道徳に従う自然な行為

「たとえ誰も見ていなくても、自分の良心が見ている。」

この考え方こそが、新渡戸の「修養(self-cultivation)」の核心です。


褒められることを捨てると、心が自由になる

他人の評価を気にせず行動することは、
一見すると孤独で地味な道に見えるかもしれません。

しかし、その先にあるのは、心の自由です。

  • 誰かの顔色を伺わない
  • 批判を恐れない
  • 自分の信念に従って行動できる

このような生き方こそが、「真の自由な人生」であり、
外的な成功よりも深い満足をもたらします。

新渡戸の教えは、
“褒められるための行動”から“誇れる自分の行動”への転換を促しているのです。


「人のためにする」ことと「人に見せるためにする」こと

この章の根底には、**“動機の純粋さ”**というテーマがあります。
新渡戸が戒めているのは、「人のため」と言いながら、実際は「自分のため」に行動してしまう心です。

  • 寄付やボランティアを「感謝されたい」ために行う
  • 努力を「認めてもらいたい」から見せる
  • 謙虚さを「評価される手段」にしてしまう

こうした行為は一見善良に見えても、根が“名誉欲”であれば、それは偽物です。

本当に尊い行為とは、見返りを求めない善意
そのような行動だけが、人の心を静かに打ち、長く残るのです。


まとめ:褒められるより、恥じない生き方を

『修養』のこの章が伝えるメッセージは、次の3つにまとめられます。

  • 人に褒められることを目的にすると、行動は不純になる。
  • 真の修養とは、自分の良心に誠実であること。
  • 名誉を求めず、静かに正しいことを行う人が、最も尊い。

つまり、「人にどう見られるか」より「自分がどう生きるか」
この価値観の転換こそが、人生をより豊かにし、自由にするのです。


最後に

新渡戸稲造の言葉を現代風に言えば、こうなります。

「褒められなくてもいい。
自分が胸を張っていられる行動をしなさい。」

人の評価に左右されない静かな誇り。
それが、真に成熟した人の生き方であり、
新渡戸が生涯を通じて守り抜いた“修養の心”なのです。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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