「細菌感染症=白血球増加と左方移動」というイメージを持たれる方も多いでしょう。しかし、実際には左方移動を伴わない重症細菌感染症も存在します。
代表的なのは以下の3つです。
- 感染性心内膜炎
- 細菌性髄膜炎
- 膿瘍
これらの疾患は、好中球の消費動態に特徴があり、臨床判断を難しくすることがあります。本記事では、それぞれの特徴を整理します。
1. 感染性心内膜炎
感染性心内膜炎では、心臓弁に小さな感染巣が形成され、そこから血中に細菌が放出されます。
- 放出される細菌量は比較的少ない
- 血流プール内の好中球だけで対応可能
- 結果として、骨髄の好中球産生は亢進しない
そのため、感染が進行していても白血球数や左方移動の変化が乏しく、「血液検査だけでは見逃されやすい」点に注意が必要です。
2. 細菌性髄膜炎
細菌性髄膜炎では、感染の主座が**中枢神経系(脳・脊髄)**にあります。
血中の好中球は感染巣へ移行できないため、消費が起こりません。結果として、骨髄も産生亢進の必要がなく、白血球数や分画に顕著な変化が見られないことがあります。
臨床的には髄液検査の重要性が高く、血液検査だけに頼ると診断が遅れるリスクがあります。
3. 膿瘍
膿瘍は、組織内に限局した膿の貯留であり、被膜によって囲まれていることが特徴です。
血中の好中球が膿瘍内へ移行しにくいため、全身の好中球動態に影響を与えません。これにより、白血球数や左方移動に大きな変化が出ない場合があります。
一方で、局所では強い炎症が持続しているため、画像検査(CTやMRI)と臨床症状の評価が欠かせません。
左方移動を示さない感染症に共通する特徴
これら3疾患に共通するのは、**「好中球の大量消費が起こらない」**という点です。
- 感染巣が小さい(感染性心内膜炎)
- 感染巣が血中から隔絶されている(髄膜炎・膿瘍)
このため、骨髄の好中球産生が刺激されず、左方移動も白血球増加も目立ちません。
まとめ
重症細菌感染症であっても、必ずしも左方移動がみられるわけではありません。
- 感染性心内膜炎:小さな感染巣 → 白血球変動乏しい
- 細菌性髄膜炎:血中好中球が感染巣に移行できない
- 膿瘍:局所に閉じ込められ、全身の好中球動態に影響しない
したがって、「白血球数や左方移動が正常だから重症感染は否定できる」とは言えません。臨床では、検査値に加え、画像検査や臨床症状を総合的に判断することが重要です。