新渡戸稲造『修養』に学ぶ——人間以上のものと縦の関係を結べ
「縦の関係」とは何か——新渡戸稲造の人生観
新渡戸稲造は『修養』の中で、次のように述べています。
「人間以上のものとの垂直的な縦の関係を結び得た人だけが、自分の根本的な方針を決めることができる。」
新渡戸が言う「人間以上のもの」とは、
必ずしも宗教的な“神”だけを指すわけではありません。
それは、自然の摂理・道理・天・良心・理想など、
人間の欲や感情を超えた“高い次元の価値”のことです。
つまり、自分の生き方を他人の意見や世間の評価ではなく、
「もっと大きな存在」との関係の中で見つめること。
それが“縦の関係”を持つということなのです。
「使命感」は、天との関係から生まれる
「自分がこのような仕事をするのは天からの使命、天への義務と考え、天とともに働くことを喜びとする。」
ここで新渡戸が強調しているのは、**「使命感」**です。
彼は、仕事や行動の動機を「人にどう見られるか」ではなく、
「天が自分に何を求めているか」という軸で考えました。
つまり、どんな職業や立場であっても、
それが“天から与えられた使命”と感じられれば、
仕事は義務ではなく、喜びに変わる。
この考え方は、現代で言う「パーパス(目的意識)」や「ライフワーク」の思想にも通じます。
仕事の意味を外ではなく、内側に見いだすこと。
それが、真のやりがいと精神的な自由をもたらすのです。
「天とともに働く人」は、他人の評価に動じない
「世の人々から褒められようとけなされようと、平然としていることができる。」
人間関係の“横の軸”に依存している人は、他人の評価で心が揺れます。
褒められれば喜び、批判されれば落ち込む。
しかし、“縦の軸”を持つ人は違います。
自分の基準が「天」や「良心」にあるため、
他人の評価に左右されず、静かな確信の中で生きられるのです。
それは、いわば**「外にぶれない強さ」**。
新渡戸が理想としたのは、
他人に迎合せず、自分の信念に従って淡々と歩む人間像でした。
「報酬は天から受け取ればよい」
「仕事の報酬を人から受け取ることができなくても、天からそれを得ることができれば、それで満足することができるのだ。」
この一文には、新渡戸の“生き方の美学”が凝縮されています。
努力しても評価されない、成果が認められない——
そんなときでも、「天が見ている」と信じることで心が折れない。
これは決して宗教的な慰めではなく、
内的な報酬を重視する生き方です。
- 「人に評価されるために働く」のではなく、
- 「自分の信念を貫くために働く」。
その姿勢こそが、人生をしなやかに、そして誇り高くしてくれるのです。
現代に生きる「縦の関係」の力
現代社会は、評価・SNS・ランキングなど、“横の関係”が支配しています。
誰が上で誰が下か、他人と比べずにはいられない。
そんな時代だからこそ、新渡戸の「縦の関係」の思想は一層光ります。
自分の行動基準を「他人」ではなく「自分と天との関係」に置く。
そうすれば、
- 他人の目を気にせず、誠実に行動できる
- 自分の人生の目的が見えてくる
- 外的な報酬に振り回されない
つまり、「縦の軸」を持つことは、心の自由を得ることでもあるのです。
まとめ:人間以上のものに導かれて生きる
新渡戸稲造『修養』のこの章は、
現代の私たちが見失いがちな“精神の基準”を思い出させてくれます。
「人間以上のものとの縦の関係を結び得た人だけが、自分の根本的な方針を決めることができる。」
他人との“横の比較”ではなく、
天・理想・良心との“縦の関係”を持つこと。
それこそが、自分の生き方を決める確かな羅針盤です。
そしてその関係を結んだ人は、
他人に褒められようとけなされようと揺るがない。
なぜなら、その人の報酬は——
すでに“天”から与えられているからです。
