「捨てる覚悟」が人生を軽くする――新渡戸稲造『人生雑感』に学ぶ幸福の本質
「捨てる覚悟」とは何か
新渡戸稲造は『人生雑感』の中でこう語ります。
世の中における幸福や名誉などは、それを得てもよし、得なくてもよしと思っているぐらいがちょうどいい。
私たちは、仕事の成功、人からの評価、財産や地位などを「手に入れたい」と強く願いがちです。しかし、その「欲望」や「執着」が心を重くしていることに気づくことは少ないでしょう。
新渡戸は、「一切を捨てる覚悟」があれば、幸福や不満に振り回されない心の自由が得られると言います。ここでいう「捨てる」とは、現実から逃げることではありません。山に籠って俗世を離れるような意味ではなく、「どんな結果であっても心を乱されない覚悟」を持つこと。つまり、心の中の執着を手放す勇気を指しているのです。
幸福も名誉も「得てもよし、得なくてもよし」
現代社会では、SNSの「いいね」や他人との比較が日常的に心を揺らします。「もっと評価されたい」「もっと豊かになりたい」と思うほど、満足は遠ざかっていく。
新渡戸が言う「得てもよし、得なくてもよし」という感覚は、現代にこそ必要なバランス感覚です。
これは「無関心」ではなく、「どんな結果でも自分の価値は変わらない」という自己肯定の姿勢です。
結果をコントロールしようとするのではなく、プロセスを大切にし、今この瞬間を誠実に生きる――その積み重ねが、真の幸福を生み出すと新渡戸は教えてくれます。
捨てることで、心が自由になる
「捨てる覚悟」を持つと、物事へのこだわりが減り、驚くほど心が軽くなります。
たとえば、次のような考え方の転換が起こります。
- 「評価されたい」→「自分の信念に沿って生きたい」
- 「失敗したくない」→「挑戦できることがありがたい」
- 「失うのが怖い」→「今あるものを味わおう」
捨てるとは、諦めることではなく、「執着を超えること」です。
そうすることで、人は初めて「今ある幸せ」に気づけるのです。
浮世にいながら、すべてを超えて生きる
新渡戸は「浮世にいても、何物も惜しみなく捨てる覚悟さえもてれば、何ら不満が起こることもなく、人生の幸福を感じて愉快に生きていくことができる」と言います。
つまり、社会の中で働き、人と関わりながらも、心の奥では常に「手放す力」を持っていること。
それが本当の強さであり、幸福の根源なのです。
この「内なる自由」を持つ人は、何が起きても動じません。成功しても驕らず、失敗しても落ち込まない。静かな強さがそこにあります。
まとめ:捨てる覚悟が、人生を豊かにする
「捨てる覚悟」とは、決して冷淡な生き方ではありません。むしろ、心を澄ませ、今ここにある幸福を丁寧に味わうための智慧です。
- 成功も失敗も受け入れる
- 評価に左右されない
- 変化を恐れず、手放す
この3つを意識するだけで、心は驚くほど穏やかになります。
新渡戸稲造の言葉は、100年以上経った今も、競争社会に生きる私たちの心に深く響きます。
「捨てる覚悟」を持つこと。それは、最も自由で、最も豊かな生き方への第一歩なのです。
