「上司の長所に目を向けよ」――新渡戸稲造『世渡りの道』に学ぶ、信頼関係を築く部下の心得
「上司を大切にせよ」という新渡戸の視点
新渡戸稲造は『世渡りの道』でこう述べています。
上司には部下の真価を見極める見識が必要だ。その一方、部下も上司を大切にしなければならない。
この一文は、上下関係の「双方向性」を明確に示しています。
上司が部下を評価するだけでなく、部下も上司を理解し、敬意を払う努力をすべきだという考えです。
現代の職場では、「上司がダメだからやる気が出ない」「上司が理解してくれない」といった不満をよく耳にします。
しかし新渡戸は、それを一方的に嘆くのではなく、自分の見方を正すことから始めよと教えています。
不完全な上司にも「何かしらの長所」がある
新渡戸は続けてこう語ります。
企業や役所の役職者には欠点の多い人もいるが、それなりの役職についている人には何かしらの長所があるはずだ。
これはとても現実的な言葉です。
どんな組織にも、理想的な上司ばかりではありません。
しかし、組織の中で一定の地位を得たということは、何らかの能力・人脈・専門知識など、評価される理由があるということ。
新渡戸は、「完全ではない上司」に対しても、その長所を正当に認めることを求めています。
これは、上司を無理に持ち上げるためではなく、部下自身が広い視野を持ち、人を見る力を養うためなのです。
「欠点」ばかり見ていては、自分も成長しない
上司の欠点は、どうしても目につくものです。
性格が合わない、判断が遅い、部下への配慮が足りない――そんな不満を抱いた経験は誰にでもあるでしょう。
しかし新渡戸は、そこに留まる危険を指摘します。
他人の欠点ばかりを見ていると、自分自身の成長を妨げるのです。
上司の短所を数えるよりも、
- どんな判断をするときに強みを発揮しているのか
- どんな場面で周囲をまとめているのか
- 自分にはない視点をどこに持っているのか
こうした「長所を見る努力」が、やがて**人を見る眼(め)**を育て、あなた自身のリーダーシップにもつながります。
「見る目」を持つことが人間関係の知恵
新渡戸が重視したのは、「正当に認める努力」でした。
かりに人徳がないとしても、何らかの能力が、また能力がないとしても専門的な知識があるなど、ともかく上司には何らかの長所があるはずだ。部下はそうした上司の長所を正当に認めるように努めなければならない。
ここで重要なのは「正当に」という言葉。
無理に上司を褒めるのではなく、事実に基づいて長所を見つけ、きちんと認識するということです。
この姿勢は、上司への媚びではなく、相手を公正に見る力の表れ。
それはやがて、人を見る眼として、どんな職場でもあなたを助ける大切な資質になります。
上司を見る目は「自分の心の鏡」
人は、自分の心の状態によって他人の見え方が変わります。
不満を抱えていれば、どんな人にも欠点ばかり見える。
感謝の気持ちを持てば、同じ人にも長所が見えてくる。
新渡戸の教えは、実は「上司との関係」を超えて、人間関係全般の本質を語っています。
上司を見る目を変えることは、自分の心の成熟を映す行為でもあるのです。
現代に生きる「上司を見る知恵」
リモートワークや成果主義が進む現代社会では、上司と部下の距離が広がりがちです。
だからこそ、表面的な評価や印象に流されず、「人としての長所を見る力」がより重要になります。
- 感情ではなく、行動で人を見る
- 欠点ではなく、学べる点を探す
- 上司を通して、自分の働き方を省みる
これらの姿勢は、上司への敬意だけでなく、自己成長のトレーニングにもなります。
新渡戸が説いた「上司の長所に目を向けよ」という言葉は、単なる処世術ではなく、
「心の成熟を磨く方法」なのです。
まとめ:上司を正しく見る人が、やがて信頼される人になる
新渡戸稲造の言葉は、100年以上経った今も普遍的です。
- 上司の欠点ばかりを見ない
- どんな人にも長所があると信じて見る
- 正当に評価し、学ぶ姿勢を持つ
この姿勢を続ける人は、やがて自分も信頼される側になります。
上司の長所を見つける努力は、実は自分を育てる努力。
「人を見る目を磨くこと」こそ、社会を渡るための最良の知恵であり、
新渡戸稲造が『世渡りの道』で伝えた“成熟した生き方”なのです。
