「自分で全部やろう」と思わない――新渡戸稲造『人生読本』に学ぶ、任せる勇気と本当の貢献
「任せること」も立派な仕事
新渡戸稲造は『人生読本』の中で、こう語っています。
仕事をするにあたっては、そのすべてを自分でする必要はない。それをするのに自分よりも適任者がいれば、その人に任せればいい。
この一節は、一見シンプルですが、現代の働き方にも深く通じる真理です。
私たちは、「自分が頑張らないと」「全部自分でやらなければ」と思い込みがちです。
しかし新渡戸は、それを誤った責任感だと指摘しています。
本当に責任ある人とは、すべてを抱え込む人ではなく、最も成果が出る方法を選べる人。
その選択の一つが、「適任者に任せる」という知恵なのです。
「任せること」は信頼の表現
人に仕事を任せることには勇気がいります。
「失敗されたらどうしよう」「自分でやった方が早い」――そんな不安がつきものです。
しかし、新渡戸はその考えを一歩進めます。
任せるとは、単に仕事を手放すことではなく、相手を信じること。
信頼をもって仕事を委ねることで、相手は成長し、チーム全体が強くなる。
そして、その成長を支援することで、自分も間接的に貢献しているのです。
そして、直接間接にその人を援助することができれば、その仕事に自分も貢献したことになるのだ。
この言葉に、新渡戸の「チームとして生きる知恵」が凝縮されています。
「任せられない人」が抱える3つの罠
現代のビジネスでも、「任せるのが苦手な人」は少なくありません。
新渡戸の思想を踏まえると、その背景には次の3つの“思い込み”があります。
① 自分がやる方が早い
短期的には正しいかもしれませんが、長期的には逆効果。
任せなければ、チーム全体のスキルは育ちません。
② 相手を信頼できない
任せることで、初めて信頼が生まれます。
信頼は“結果”ではなく、“プロセス”で築くものです。
③ 責任を取るのが怖い
任せても、最終的な責任は自分にあります。
しかし、「責任を取る」ことと「全部やる」ことは別。
リーダーの本分は、人を活かして結果を出すことです。
「適任者に任せる」ための3つのステップ
新渡戸の言葉を現代の仕事術に置き換えるなら、以下のステップが有効です。
① 人を見極める
適任者とは、スキルだけでなく「誠実さ」や「責任感」も含まれます。
相手の強みを観察し、任せる領域を慎重に選びましょう。
② 任せたら口を出しすぎない
途中で細かく指示を出すと、信頼は崩れます。
相手が困ったときにだけ支援する――“伴走者”の姿勢を持つことが大切です。
③ 成功も失敗も共に受け止める
任せたからには、結果に責任を持つ。
失敗を責めず、一緒に改善を考えることで信頼関係は強固になります。
「任せること」は自己犠牲ではなく“全体の最適化”
新渡戸の教えは、「自分を犠牲にして他人に譲れ」という話ではありません。
むしろ、「全体の成果を最大化するために、個人のこだわりを手放せ」というメッセージです。
自分が主役でなくてもいい。
裏方として支えることも、同じくらい価値のある貢献。
主役と脇役の区別を超えて、チームとしての目的に忠実であることが、新渡戸の理想でした。
「任せる勇気」がチームを育てる
任せることで、自分の仕事は減るかもしれません。
しかし、任された人が育ち、チーム全体の力が上がれば、あなたの影響力は確実に大きくなります。
リーダーとは、自分の手で全てをやる人ではなく、人を動かして成果を出す人。
新渡戸の言葉は、現代のマネジメントやプロジェクト運営にも通じる普遍の教訓です。
まとめ:任せることもまた、立派な貢献
新渡戸稲造の「仕事は適任者に任せよう」という教えは、
リーダーとしてだけでなく、すべての働く人に通じる哲学です。
- すべてを自分でやる必要はない
- 適任者を見つけ、信頼して任せる
- 間接的な支援も、立派な貢献である
「任せること」は、逃げではなく、成熟した判断。
そして、任せる勇気を持つ人が、最終的に最も信頼される人になります。
今日からは、「自分がやるべきか」ではなく、
「誰がやるのが最善か」で考えてみましょう。
それが、新渡戸稲造が説いた“賢い世渡り”の第一歩なのです。
