「心の使い方が、人生を変える」――新渡戸稲造『人生読本』に学ぶ、癖も性格も変えられる思考法
「癖は心から生まれる」――新渡戸の人間観
新渡戸稲造は『人生読本』の中で、こう述べています。
世の中にはいろいろな癖の人がいるが、そんな中に、気どってものをいう癖のある人がいる。しかし、この気どるという行為は、決して唇や舌の作用ではない。
この冒頭の一文は、一見些細な「立ち居振る舞い」の話に見えます。
しかし新渡戸が本当に伝えたいのは、人の癖や性格の根源は“心”にあるということです。
私たちはよく「口癖」「態度の癖」といった言葉を使いますが、
それは単なる身体的な動作ではなく、心の中に潜む欲求や思考のパターンの表れなのです。
「気どる」という行為の正体
新渡戸は続けて、具体的な例を挙げます。
気どって歩く者がいる。肩をいからせたり、体をゆすったりする者がいる。これは威張りたいという心の中の望みから来るのだ。
つまり、「気どり」や「威張り」といった態度は、
“自分を自分以上によく見せたい”という心の動きから生まれます。
これは、現代にも通じる人間心理です。
SNSで過剰に自分を飾ること、
職場で必要以上に優秀に見せようとすること――
これらもすべて、「他人にどう見られるか」を意識しすぎた結果です。
新渡戸は、それを**「心の誇張」**と見抜いていました。
そして、その心を整えることこそが、
人間としての成熟だと説くのです。
「心を変えれば、癖も変わる」
新渡戸はこう結びます。
これは自分を自分以上に見せたいという気持ちのことであり、これを抑えることができれば、そのような癖もやめることができる。
まさに、世の中に数かぎりなくある嫌な癖も、心の使い方ひとつで矯正できるのだ。
ここで注目すべきは、「心の使い方ひとつで矯正できる」という部分です。
つまり、性格や習慣は決して変えられないものではないということ。
多くの人は、
「自分はこういう性格だから仕方ない」
「この癖はもう治らない」
と諦めてしまいます。
しかし新渡戸は、人間の心には柔軟性があり、
意識の向け方を変えれば行動も変わると信じていました。
「心の使い方」で変えられる3つのこと
では、実際にどんなふうに心を使えば、行動や癖を変えられるのでしょうか。
新渡戸の思想をもとに、3つの実践法を挙げます。
① 「見せたい心」ではなく「尽くしたい心」に置き換える
「どう見られるか」を気にすると、人は不自然になります。
代わりに、「どう役立てるか」を意識すると、自然な言葉と態度が生まれます。
たとえば――
- 自慢よりも、感謝を伝える
- 威張るよりも、励ます
- 目立つよりも、支える
「自分中心の心」から「他者中心の心」へと切り替えることが、心の使い方の第一歩です。
② 「意識を外ではなく内に向ける」
人の評価や比較に意識を向けるほど、心は乱れます。
自分の行動に「どんな意味があるか」「どんな学びがあるか」を見つめ直すことで、
他人の目に左右されずに成長できます。
新渡戸の修養とは、**「他人を変えるより、自分の心を整える」**ことなのです。
③ 「自分を見つめる時間」を持つ
癖や行動は、無意識のうちに繰り返されるもの。
1日の終わりに、「今日はどんな気持ちで話したか」「どんな態度だったか」を振り返ると、
心の使い方に気づくことができます。
静かに心を見つめる時間こそ、新渡戸が言う“修養の場”です。
「心が変われば、世界が変わる」
新渡戸の教えを現代の心理学的に言えば、
これは「認知の転換(リフレーミング)」です。
人間の行動は、外的な刺激ではなく、
その出来事をどう捉えるかによって決まります。
たとえば、
- 注意された → 「責められた」と思うか、「成長の機会」と思うか
- 忙しい → 「苦しい」と思うか、「充実している」と思うか
同じ出来事でも、心の使い方ひとつで世界の見え方は変わります。
だからこそ新渡戸は、
「何事も心の使い方ひとつで変えられる」と断言したのです。
現代へのメッセージ――「心の癖」を整える時代
情報があふれ、感情が揺れやすい現代では、
“心の癖”が生き方を大きく左右します。
- ネガティブなニュースにすぐ反応してしまう
- SNSで他人と比べて落ち込む
- 周囲の目を気にして本音を出せない
こうした反応もまた、心の使い方の結果です。
新渡戸の言葉を借りれば、
「心を整えれば、言葉も行動も自然と整う」
ということ。
日々の小さな意識の積み重ねが、人格をつくり、人生を変えていきます。
まとめ:「心の使い方」が人生の舵になる
新渡戸稲造の「何事も心の使い方ひとつで変えられる」という言葉は、
行動や性格を変えたいと願うすべての人への励ましです。
- 癖も性格も、心の向け方で変えられる
- 見せようとする心を、尽くそうとする心に変える
- 外の世界を変える前に、自分の心を磨く
私たちが変えるべきは、世界ではなく心の使い方。
心を整えることで、言葉が変わり、行動が変わり、人生が穏やかに変わっていきます。
新渡戸稲造の教えは、今も変わらずこう語りかけます。
「あなたの心の使い方が、あなたの運命を形づくる。」
