「ありのままの自分を見せよう」──新渡戸稲造『世渡りの道』に学ぶ、素直に生きる勇気
「ありのままの自分を見せよう」──壁をつくるのは自分自身
新渡戸稲造は『世渡りの道』の中でこう語ります。
「自分自身をありのままにさらけ出すことができれば、他人との間に壁などつくる必要はない。」
人との間に距離ができる原因の多くは、「自分をよく見せよう」とする意識から生まれます。
本当の自分を隠して、立派に見せようとしたり、欠点を覆い隠そうとしたり──。
しかし、そうすればするほど心は不自由になり、人との関係にも“見えない壁”ができてしまいます。
ありのままの自分を見せることは、恥ずかしいことでも、弱さでもありません。
それはむしろ、勇気と誠実さの表れなのです。
「ない」と言える人が、信頼される人になる
新渡戸はさらにこう述べています。
「もし人に言えるような考えがないのであれば、『ない』と言えばいい。」
現代社会では、“すぐ答える”“知っているように見せる”ことが求められがちです。
しかし、すべてに答えようとする必要はありません。
知らないなら「わからない」と言えばいいし、考えがまとまっていないなら「まだ考えていない」と正直に伝えればいい。
ないものをあるように装うと、人は苦しくなる。
自分を偽るほど、人との距離は広がり、心の壁は高くなっていきます。
逆に、素直に「ない」と言える人は、周囲から信頼されるようになります。
「見せかけの自分」が、孤独を生む
新渡戸は、人が「隠そうとする心」こそが孤独をつくると考えていました。
「ないものをあるように装おうとするから、つくる必要もない壁をつくって、ないものを隠そうとすることになるのだ。」
つまり、自分を偽ることこそ、人との間に壁をつくる原因なのです。
私たちはしばしば、“完璧な自分”を演じようとします。
しかし、その「見せかけの自分」は、他人とつながるどころか、自分自身をも孤立させてしまうのです。
人は完璧な存在ではありません。
足りないからこそ支え合い、未熟だからこそ学び合える。
ありのままの姿を見せることが、人間関係の本当のスタートなのです。
「ありのまま」でいる勇気
ありのままに生きるとは、好き勝手に振る舞うことではありません。
それは、「自分を偽らずに誠実でいる」ということ。
周囲に合わせすぎず、必要以上に取り繕わず、正直な自分を受け入れる勇気です。
たとえば、仕事で失敗したとき、「自分が悪かった」と認められる人は強い。
友人に意見を求められても、「よくわからない」と言える人は誠実。
完璧に見せようとせず、正直に自分の限界を示せる人は、むしろ尊敬されます。
「わからない」と言える人の方が、結局は信頼される。
それが、新渡戸稲造の説く“真の強さ”なのです。
素直な人ほど、人を惹きつける
心理学的にも、「自己開示」が人間関係の信頼を深める鍵だといわれています。
自分をさらけ出せる人には、安心感と温かさがあり、他人も心を開きやすくなります。
新渡戸の言葉は、100年以上前に書かれたものですが、まるで現代のコミュニケーション論を先取りしているようです。
人との関係を築くうえで大切なのは、立派な言葉や知識よりも、
「この人は嘘をつかない」という安心感。
その信頼は、素直さと正直さから生まれます。
まとめ:ありのままの自分が、いちばん強い
『世渡りの道』のこの一節に込められた新渡戸稲造のメッセージは、シンプルでありながら力強いものです。
「自分自身をありのままにさらけ出すことができれば、他人との間に壁などつくる必要はない。」
人は、飾らないときにこそ魅力的です。
ありのままの姿を見せる勇気が、あなたを自由にし、周りとのつながりを深めてくれます。
完璧でなくていい。
わからないときは「わからない」でいい。
自分を偽らず、誠実に生きること──それが、新渡戸稲造の説いた「世渡りの智慧」であり、
現代を生きる私たちへのやさしい指針なのです。
