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大腿筋膜張筋短縮テストを正しく理解する:腸脛靭帯の緊張評価と臨床応用

taka

はじめに

腸脛靭帯(Iliotibial Band:ITB)は、股関節外側から膝外側まで連続する線維性構造で、股関節・膝関節の動的安定に寄与しています。
そのITBの緊張を高める主要な要因の一つが、**大腿筋膜張筋(Tensor Fasciae Latae:TFL)**の短縮です。

臨床では、腸脛靭帯の滑走障害や外側膝痛(ランナーズニーなど)の評価において、**TFLの伸張性を確認する短縮テスト(Oberテスト)**が重要な指標となります。
ここでは、大腿筋膜張筋短縮テストの実施方法と判定基準、さらに大殿筋との関連について解説します。


大腿筋膜張筋と腸脛靭帯の解剖学的関係

大腿筋膜張筋は、上前腸骨棘(ASIS)付近から起始し、腸脛靭帯の前方部に幅広く合流します。
そのため、TFLの短縮は腸脛靭帯の前側を強く牽引し、ITB全体の緊張増大を引き起こします。

腸脛靭帯は伸縮性が乏しい組織ですが、張筋が短縮するとその張力が伝わり、膝外側部の滑走障害や摩擦痛を助長します。
したがって、腸脛靭帯の状態を評価するうえで、TFLの伸張性を確認することは必須と言えます。


大腿筋膜張筋短縮テスト(Oberテスト)の実施手順

【1】基本肢位

  • 被検者を側臥位とし、非検査側を下側にする。
  • 非検査側の股関節を90°屈曲させ、骨盤の後傾を固定する(骨盤の安定が最重要)。

【2】検査動作

  • 検査側下肢(上肢)を股関節伸展位に保持したまま、
     → ゆっくりと股関節内転方向へ下降させる。
  • この際、膝関節を軽度屈曲位に保つことで、腸脛靭帯前方の伸張がより明確になる。

【3】判定基準

  • 検査側の膝内側が床面に接地する(またはそれに近い)場合 → 陰性(短縮なし)
  • 膝が床から浮いたまま保持される場合 → 陽性(短縮あり)

このテストでは、TFLの伸張性と腸脛靭帯の滑走制限の両方を反映します。
もし陽性であれば、TFLまたは腸脛靭帯の過緊張が示唆されます。


大殿筋短縮テストとの鑑別

腸脛靭帯には、大腿筋膜張筋だけでなく**大殿筋(Gluteus Maximus)**も後方から合流しています。
そのため、ITBの緊張を評価する際には、前方(TFL)と後方(Gmax)それぞれの影響を区別する必要があります。

【大殿筋の評価方法】

  • 被検者を背臥位または側臥位にし、
  • **股関節屈曲90°・内転20°**の位置から開始。
  • この肢位から膝関節を伸展し、その角度を測定する。

**45°以下に達すれば陰性(短縮なし)**と判定されます。
股関節伸展方向で制限が強い場合は、大殿筋短縮によるITB緊張が疑われます。

つまり、TFLとGmaxのどちらがITBの緊張源となっているかを鑑別することが、治療戦略を立てる上でのポイントです。


臨床応用:評価結果をどう活かすか

大腿筋膜張筋や大殿筋の短縮を認めた場合、以下の臨床的示唆が得られます。

  1. 腸脛靭帯滑走障害の背景
     → TFL/Gmaxの過緊張がITBの摩擦を増加させている。
  2. 膝外側痛(ランナーズニー、PFPS)の誘因
     → 股関節筋群の短縮が膝蓋骨の外側偏位や膝外側張力の増大を助長。
  3. 治療戦略の立案
     → TFL・Gmaxの筋膜リリース、股関節伸展+内転方向の動的ストレッチ、骨盤安定性トレーニングの組み合わせが有効。

また、Oberテストの再評価を行うことで、治療効果を客観的に確認することができます。


まとめ

大腿筋膜張筋短縮テスト(Oberテスト)は、腸脛靭帯の緊張評価に欠かせない基本的かつ臨床的に有用な検査です。
大腿筋膜張筋が腸脛靭帯前方を牽引し、大殿筋が後方から合流するという構造を理解することで、
どの筋が緊張を生み、どの方向の動作が制限されているかを的確に判断できます。

腸脛靭帯炎や膝外側痛をみる際には、単に「ITBが硬い」ではなく、
“その張力を生み出している筋はどれか”を評価する視点が、より効果的な治療につながります。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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