リハビリ関連

膝窩部の解剖を理解する:半膜様筋腱と後内側・後外側支持機構の構造的連携

taka

はじめに

膝窩部は、膝関節の後方に位置し、多数の靭帯・筋腱・神経・血管が交錯する複雑な構造を形成しています。
この領域は、**膝関節の安定性を保つ「最後方の防御壁」**ともいえる場所であり、臨床では後方不安定性や内外旋制御の評価・治療において重要な理解を要します。

本記事では、半膜様筋腱の分岐構造とAOL・POLを含む後内側支持組織、さらにLCLやファベラ腓骨靭帯を含む後外側支持機構の構造と機能を整理します。


半膜様筋腱の分岐構造

膝窩部で特徴的なのが、半膜様筋(semimembranosus)腱の複雑な分岐です。
この筋は、膝関節の屈曲および下腿の内旋を担う主要筋であり、その腱は複数の線維束に分かれて周囲の靭帯や筋膜と連結します。

主な分岐線維は以下の通りです:

  • AA(anterior arm):前内側に分岐し、半膜様筋腱溝内を走行。
     鵞足筋群と類似の作用を持ち、下腿の外旋不安定性に抵抗します。
  • DA(direct arm):脛骨内側顆の後面に直接付着。
     膝屈曲時に強く張力を発揮し、屈曲動作の安定化要素として機能します。
  • 膝窩部線維(oblique fibers):膝窩下内側から膝窩上外側へ走行し、斜膝窩靭帯(oblique popliteal ligament)を形成。
     膝関節の過伸展(hyperextension)を制動
    する重要な支持構造となります。

また、一部の線維は膝窩筋(popliteus muscle)筋膜に連結し、膝窩筋の活動を補助する役割を果たしています。
つまり、半膜様筋は単独の屈筋ではなく、後方・内側・外旋制御に関与する多面的な安定化筋といえます。


後内側支持機構(Posteromedial Corner)

膝関節の後内側支持組織は、主にMCL(内側側副靭帯)とその関連線維によって構成されています。
そのなかでも、以下の2つの斜走線維が重要です。

  • AOL(Anterior Oblique Ligament):MCLの前斜走線維。
     膝関節の屈曲位で張力を発揮し、内反ストレスに抵抗します。
  • POL(Posterior Oblique Ligament):MCLの後斜走線維。
     膝関節伸展位で強く緊張し、膝関節の過伸展および内旋不安定性を制御します。

AOLとPOLは、半膜様筋腱線維や関節包と複雑に交錯し、動的安定性と静的安定性の両面を支えています。
臨床的には、これらの線維が損傷すると内反および内旋ストレスで膝が開くような動揺性が出現します。


後外側支持機構(Posterolateral Corner)

膝の後外側部には、外反や下腿外旋を制御する強固な支持機構が存在します。
代表的な構成要素は次の3つです。

  1. LCL(外側側副靭帯):腓骨頭に付着し、膝関節の外反不安定を抑制。
  2. FFL(fabello-fibular ligament):ファベラ(sesamoid bone)と腓骨頭を結ぶ靭帯。
  3. 膝窩腓骨靭帯(popliteo-fibular ligament):膝窩筋腱と腓骨頭を連結。

これらは総称して膝後外側支持機構(posterolateral corner, PLC)と呼ばれます。
PLCは膝関節の伸展位での内反ストレスおよび下腿外旋不安定性に抵抗
し、
特に外側膝窩筋腱と協調して、膝の回旋安定性を動的に補強します。

臨床的には、PLC損傷があると膝の「外開き(varus)」や「外旋ズレ」が強調され、
ランニング中の方向転換やカッティング動作で痛み・不安定感が出やすくなります。


臨床での意義:後方構造を立体的に捉える

膝窩部の構造は、単なる屈筋や靭帯の集合体ではなく、複数の層が立体的に連携する安定化ネットワークです。
したがって、臨床では以下のような視点が重要です。

  • 層ごとの評価:浅層(MCL・LCL)→中層(半膜様筋腱)→深層(膝窩筋・関節包)を区別して触診・画像評価。
  • 運動連鎖の理解:半膜様筋の張力がPOLや膝窩筋の活動に影響する構造的連携を意識。
  • 動的安定化訓練:内旋・外旋制御を目的とした運動療法(特に膝軽度屈曲位)を導入。

膝窩部の組織は損傷しても見落とされやすいため、超音波やMRIでの層別評価が有効です。


まとめ

膝窩部は、半膜様筋腱の多方向分岐を中心に、AOL・POLを含む後内側支持組織と、LCL・FFLなどの後外側支持機構が立体的に配置された領域です。
これらの構造は、膝関節の過伸展・内外反・回旋不安定性を制御する重要な支持要素として機能しています。

理学療法においては、**「膝の後方は一枚の壁ではなく、層状に働く安定化システム」**であることを理解し、
屈曲位・伸展位それぞれでの組織緊張の変化を考慮した評価と治療を行うことが求められます。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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