膝窩筋の圧痛テスト:正確な触診ポイントと臨床での評価法
はじめに
膝後方に位置する**膝窩筋(popliteus muscle)**は、小さいながらも膝関節の安定化や回旋制御において重要な役割を果たす筋です。
特にランナーやジャンパーなどのスポーツ選手では、膝窩部痛や膝後外側部の違和感の原因となることが多く、正確な触診と圧痛評価が臨床的に不可欠です。
しかし、膝窩筋は腓腹筋やヒラメ筋の深層に位置しているため、触診が難しい筋の一つといえます。
本記事では、膝窩筋の圧痛テストの実施手順と、正確に触れるための解剖学的ポイントを解説します。
膝窩筋の解剖学的位置関係
膝窩筋は、膝関節の後外側に位置し、
- 起始: 大腿骨外側顆後面(膝窩筋腱として付着)
- 停止: 脛骨近位後面(ヒラメ筋線の直上)
に付着しています。
膝関節を屈曲・内旋させる働きを持ち、膝屈曲初期では「膝のロック解除筋」としても知られています。
構造的には、腓腹筋の深層に存在し、ヒラメ筋の直上で脛骨後面に広く付着しています。
このように多層構造の中に位置する深層筋であるため、膝窩筋の触診では表層筋の影響を正しく除去することが重要です。
圧痛テスト実施の準備姿勢
被検者を腹臥位にし、膝関節を軽度屈曲(約30〜45°)させる姿勢を取ります。
この肢位により、腓腹筋の張力を軽減し、膝窩部の深層組織にアプローチしやすくなります。
次に、触診する際の基準として以下の解剖ランドマークを確認します:
- 腓腹筋内側頭・外側頭:表層筋として大きな筋腹を形成
- 腓骨頭:膝窩部外側の触診基点
- 脛骨後面近位部:膝窩筋の停止部位
これらを指標に、腓腹筋とヒラメ筋の間隙を探るように触診を進めていきます。
膝窩筋の触診手順
膝窩筋を正確に触れるためには、表層筋を操作して深層を露出させることがポイントです。
手順
- 腓腹筋の除外操作
腓腹筋内側頭・外側頭の筋腹を一塊として把持し、内側または外側に軽く寄せます。
これにより、膝窩部深層への圧が通りやすくなります。 - ヒラメ筋上端の確認
ヒラメ筋の上縁を近位方向にたどっていくと、その直上に膝窩筋の筋腹が存在します。 - 脛骨近位後面の圧迫
脛骨近位後面に指腹を押し当て、骨面をなぞるように深部を圧迫。
この位置が膝窩筋の停止部にあたります。
膝窩筋の触診では、腓腹筋を強く押し込むのではなく、方向性を意識して深部へアプローチすることが大切です。
圧痛テストの評価ポイント
圧痛評価は、膝窩筋の脛骨側(停止部近位)で行うのが最も有効です。
この部位は、筋実質部が骨面上で広く展開しており、臨床的に圧痛を認める頻度が高い領域です。
評価手順
- 膝軽度屈曲位で、膝窩部中央からやや内側寄りを指先で圧迫。
- 被検者に「響くような痛み」や「奥の鈍痛」があるかを確認。
- 圧痛が広範囲に及ぶ場合、筋全体の緊張亢進または筋膜性疼痛が疑われます。
なお、腱部ではなく筋実質部の圧痛が臨床的に多く、特に下腿外旋不安定症やランニング後の膝窩部痛で高頻度に出現します。
臨床での解釈と対応
膝窩筋の圧痛は、単なる筋過緊張だけでなく、
- 膝後外側支持機構(LCL・膝窩腓骨靭帯)の滑走障害
- 膝窩筋腱の摩擦性炎症
- 下腿外旋不安定症による代償収縮
など、多様な病態に関連します。
そのため、圧痛所見を得た際には、膝関節の回旋安定性・下腿のアライメント・腓骨頭可動性などを併せて評価することが重要です。
リハビリ介入としては、
- 軽度内旋運動を用いた膝窩筋促通訓練
- 下腿外旋の抑制を目的とした動的安定化トレーニング
- 深層組織の摩擦軽減を狙った軟部組織リリース
が有効です。
まとめ
膝窩筋の圧痛テストは、膝後方痛の原因筋を特定するうえで欠かせない評価法です。
正確な触診のためには、
- 腓腹筋を避けて深層に触れる
- ヒラメ筋上端を基準にする
- 圧痛は脛骨側で確認する
という3つのポイントを意識しましょう。
膝窩筋は小さくても膝の動的安定に大きく関わる筋。
深層に潜むこの筋を正確に評価できることが、膝後方の疼痛診断をより精密にし、治療効果を高める鍵となります。
