策略を知りながら使わない強さ──『菜根譚』が教える、本当の賢さとは
策略を「知らない」より、「使わない」ことの難しさ
『菜根譚(さいこんたん)』の中には、人としての深い知恵が数多く記されています。
その一つが「策略を知っていても使わない」という教えです。
一見すると、「人をだましたり駆け引きするような策略を知らない方が純粋で良い」と思うかもしれません。
しかし、『菜根譚』はそうではないと言います。
「策略を知っていながら、それを使わない」──そこにこそ、本当の賢さがある。
これは、単に善人であれという道徳的な話ではありません。
むしろ、人生の荒波を知り尽くしたうえで、あえて誠実さを貫く“成熟した強さ”を語っています。
清廉でありながら、世の中を知る
この章ではもう一つ、「権勢や豪華な生活に関心がない人は清らかだが、それらに興味を持ちながらも溺れない人は、もっと清廉である」とも述べられています。
つまり、“何も知らない清さ”よりも、“知ったうえで節度を保てる清さ”が尊いということ。
たとえば、社会で働いていれば、出世や収入、権力といった誘惑に触れる機会は誰にでもあります。
それ自体を否定するのではなく、
**「知っていても、それに支配されない」**ことが真の品格だと『菜根譚』は説くのです。
現代社会では、「きれいごとだけでは生きられない」と言われることがあります。
しかし、“現実を知った上で誠実でいる”ことこそが、本当の強さなのではないでしょうか。
策略を理解することは、自分を守る力になる
「策略を使わない」とは言っても、まったく知らずに生きるのは危険です。
なぜなら、世の中には意図的に人を利用したり、立場を奪おうとする人もいるからです。
だからこそ、『菜根譚』の言葉はバランスを教えてくれます。
策略を「知る」ことは必要。だが、それを「使わない」ことに価値がある。
これは、現代のビジネスにも通じる考え方です。
交渉術や心理学、マーケティングなどを学ぶことは悪いことではありません。
ただし、それらを「人を操るため」ではなく、「お互いにより良い関係を築くため」に使うべきだ、ということです。
知識や戦略をどう使うか──そこに人間の品性が現れます。
「知っているのに使わない」ことが信頼を生む
人間関係でも仕事でも、信頼される人ほど「使える知恵をあえて使わない場面」を持っています。
たとえば、相手の弱点を知っていても責めない。
自分が有利な情報を持っていても、それを利用しない。
そんな人の周りには、自然と信頼が集まります。
それは“計算された優しさ”ではなく、“節度ある誠実さ”が感じられるからです。
一方で、知恵を「自分の利益のためだけに使う人」は、短期的には得をしても、やがて信用を失います。
『菜根譚』は、そうした人間の浅はかさを見抜いたうえで、
**「知恵と徳を両立させること」**の大切さを教えているのです。
まとめ:真の賢さとは、知恵を節度で制すること
『菜根譚』の「策略を知っていても使わない」という言葉は、
「知恵のある人ほど、誠実さを忘れてはならない」という戒めです。
無知な清らかさではなく、知識や経験を得たうえでの清廉さ。
駆け引きを理解しながらも、正直さを選べる勇気。
それこそが、時代を超えて通じる“本物の賢さ”なのだと思います。
あなたも今日から、
「知っているけれど、あえて使わない」
そんな大人の知恵を意識してみてはいかがでしょうか。
