『菜根譚』に学ぶ「極端に走らない生き方」──バランスを保つ人が最後に信頼される理由
『菜根譚』が説く「極端に走らない」生き方とは
「志は高くなければならないが、現実離れしていてはよくない。」
この一文で始まる『菜根譚』の第53章は、バランスの取れた生き方の重要性を説いています。
私たちはつい、理想を追うあまり現実を忘れたり、慎重になりすぎて何も動けなくなったりします。
洪自誠(こうじせい)は、そんな人間の傾向に「極端に走る危うさ」を見抜いていました。
この章では、志・思考・感情・信念という4つの側面について、「過ぎたるは及ばざるがごとし」という中庸の精神を具体的に示しています。
1. 志は高く、しかし地に足をつけて
志を持つことは、人生に方向性を与える大切なことです。
しかし、理想があまりにも高すぎて現実から乖離してしまうと、夢は空論に終わります。
たとえば、「社会を変えたい」という立派な志も、現実的な行動計画がなければ意味をなしません。
一歩ずつ現実の中で形にしていくことが、真に価値のある「高い志」と言えるのです。
「志は高くなければならないが、現実離れしていてはよくない。」
この言葉は、「理想を掲げながらも、地に足をつけて歩け」という実践的なメッセージです。
2. 思考は慎重に、しかし細かすぎないように
慎重さは成功への鍵ですが、考えすぎると行動が止まります。
完璧を求めすぎると、いつまでも動けなくなる──これは現代人がよく陥る罠です。
「思考は注意深くめぐらさなければならないが、細かいことにとらわれすぎてはならない。」
考えることと動くことのバランス。
情報過多の時代だからこそ、「ある程度で決める勇気」もまた、知恵の一部と言えるでしょう。
3. 感情は穏やかに、しかし冷たくなりすぎないように
人間関係の中では、感情のコントロールがとても重要です。
しかし、冷静であろうとするあまり「冷たい人」と思われてしまっては本末転倒です。
「感情はあっさりしているほうがいいが、あまりに冷たくなってしまってはいけない。」
適度に感情を表すことは、人との信頼を深めます。
他人の感情を受け止めながら、自分の心を穏やかに保つ──それが成熟した人の姿です。
4. 信念は守り抜く、しかし頑固にならないように
信念を持つことは大切ですが、それが「他人の意見を一切聞かない」という頑固さに変わると、成長の機会を失います。
「信念は厳しく守らなければならないが、あまりにかたくなになるのはよくない。」
柔軟さを失った信念は、やがて自分を苦しめる檻になります。
時に立ち止まり、他人の意見を取り入れることも、信念を磨くための大切なプロセスなのです。
現代に生きる「中庸の知恵」
『菜根譚』が説く「極端に走らない」という教えは、今の私たちにこそ必要です。
SNSでは「強い意見」や「過激な発言」が注目されがちですが、本当に信頼される人は、冷静で柔軟、そして誠実な人です。
バランスを保つことは、優柔不断とは違います。
それはむしろ、物事を俯瞰して見られる知性の証です。
まとめ:バランスは「人間としての品格」
『菜根譚』第53章の教えを一言で表すなら、
「中庸の徳を持つ者こそ、長く信頼される人間である」ということ。
- 志は高く、現実的に。
- 思考は慎重に、しかし軽やかに。
- 感情は穏やかに、しかし温かく。
- 信念は固く、しかし柔軟に。
この4つのバランスを意識するだけで、人間関係も仕事も、驚くほどスムーズに進むようになります。
『菜根譚』の言葉は、派手さはありませんが、時代を超えて通用する「生き方の羅針盤」です。
極端に走らず、静かに、自分の中心を整えて生きる──それが真の強さなのです。
