ローマ皇帝であり哲学者でもあったマルクス・アウレリウスは『自省録』に次のように記しています。
「『皇帝』になったと思い上がり、その色に染まってしまわぬように注意せよ……哲学に生きる者として自分がこうありたいと願った人間であり続けよ。」
彼は、地上最大の権力を握りながらも、常に「悪しきものを心に入れない」努力を続けていました。
皇帝という重荷と誘惑
マルクス・アウレリウスは、望んで皇帝になったわけではありません。帝位は彼に押しつけられたものでした。
- 世界一の富を手にし
- 最強の軍を指揮し
- 史上最大の帝国を治め
- 神のように崇められる存在となる
誰もが羨む立場にありながら、彼は自らを戒め続けました。そうしなければ、人々の嘘やお世辞に心を奪われ、何が大切かを見失ってしまう危険があったからです。
成功がもたらす落とし穴
これは皇帝だけの話ではありません。私たちの日常にも同じ罠があります。
- 昇進や成功をきっかけに、謙虚さを忘れる
- 富や評価を手にして、自分が「特別な存在」だと思い込む
- 他人からの称賛や期待に、自分を合わせすぎてしまう
気づけば、本来の自分を失い、他人の声に支配されるのです。
心を守るためのストア派の教え
ストア派が繰り返し説いたのは、外的な成功や失敗よりも「心の状態」を大切にせよ、ということでした。
- 理性を軸にする
何が正しく、何が善かを常に基準とする。 - 成功は人を変えない
成功しても、自分の人格や義務は変わらない。 - 誘惑に勝つ力を養う
承認欲求や慢心に飲まれないために、自省と修練を怠らない。
私たちができる実践
- 称賛に酔わない:「お世辞は私を豊かにしない」と心で唱える
- 日々の省察:夜、今日の言動が理性に基づいていたかを振り返る
- 役割に忠実である:親・友人・職業人としての義務を誠実に果たす
- 成功を人格に還元する:手に入れた富や地位を「人を助ける手段」とみなす
まとめ ― 自分を見失わないために
マルクス・アウレリウスが繰り返し自らを戒めたように、私たちもまた「心に悪しきものを入れさせない」工夫が必要です。
成功も富も称賛も、心を守れなければ毒に変わります。
だからこそ、どんな幸運が転がり込んできても、理性に従って進むべき道を判断することが求められるのです。
あなたは今、どんなものを心に招き入れ、どんなものを拒んでいますか?
その選択こそが、あなたの人生を決めていくのです。