「八分目」の生き方がちょうどいい──『菜根譚』に学ぶ控えめの美徳
「控えめ」とは、力を抑えることではない
『菜根譚』の中には、こんな一節があります。
あらゆる物事に通じることだが、余裕を持ち、少し控えめに対処することが大切である。
力を発揮しなければならない場合でも、利益を追求しなければならない場合でも、「八分目」でよしとする。
そうすれば、他人に陥れられたり、危害を加えられたりすることもない。
この言葉が示すのは、**「出し切らない美徳」**です。
努力や実力を発揮することは大切ですが、
常に全力で突き進むだけでは、やがて摩耗したり、敵をつくったりしてしまいます。
控えめとは、単に“遠慮すること”ではなく、
**「自分にも他人にも余白を残すこと」**なのです。
なぜ「八分目」がちょうどいいのか
菜根譚が説く「八分目」という考え方は、
東洋の知恵に共通する“中庸(ちゅうよう)”の精神です。
食事においては「腹八分目」が健康の秘訣。
仕事でも「余力を残す」ことで、長く良い成果を出し続けられます。
人間関係でも、「言いすぎない」「踏み込みすぎない」距離感が信頼を育てます。
つまり、何ごとにも「余白」が必要なのです。
100%の力を出すと、他者の反感を買いやすく、
自分自身の心も疲弊します。
80%で止めておくことで、次のチャンスにも柔軟に対応できる――
これこそが“八分目の知恵”の本質です。
「出しすぎ」「求めすぎ」が人を傷つける
現代社会は「もっと」「早く」「上へ」と、常に上昇を求められる世界です。
しかし、『菜根譚』はその逆を教えます。
全力で成功を追うことは素晴らしい一方で、
- 他人を押しのけてでも結果を得ようとする
- 完璧を求めすぎて自分を追い詰める
- “勝った”あとに気づけば孤独になっている
そんな落とし穴もあります。
「八分目でよし」と考えることで、
私たちは自然と謙虚さと余裕を取り戻します。
それが周囲との摩擦を減らし、自分の心も守る最良の方法なのです。
人間関係における「控えめ」の力
人間関係においても、「控えめ」はとても重要な徳です。
つい言いたいことを言いすぎたり、
正しさを主張しすぎたりして関係を悪くしてしまう――
そんな経験は誰にでもあるでしょう。
『菜根譚』の教えを現代的に言い換えれば、
**「相手に考える余地を残す」**ことです。
たとえば、
- アドバイスは“助言”にとどめ、“指導”にしない。
- 相手の間違いを“訂正”するのではなく、“気づかせる”。
- 議論で勝つよりも、“関係を保つ”ことを重視する。
控えめな人は、言葉にも態度にも柔らかさがあり、
相手の心に安心感を与えます。
結果的に信頼を得やすく、長く良い関係を築けるのです。
力を抜くことで、力が深まる
『菜根譚』が説く控えめの生き方は、
決して弱さの表れではなく、成熟した強さです。
弓を最大限に引き絞れば、すぐに弦が切れます。
しかし、少しゆるめれば、長くしなやかに使えます。
人の心や行動も同じで、緩やかさの中にこそ持続する力があるのです。
この「ゆとり」こそが、
自分を守り、他者を尊重する知恵であり、
結果として人生を安定させる秘訣でもあります。
まとめ:「八分目の生き方」が人生を長く豊かにする
『菜根譚』の「控えめにする」という教えは、
“努力をやめること”ではなく、“努力に節度を持つこと”を説いています。
- 力を出し切らず、余力を残す
- 言葉を控え、思いやりを残す
- 利益を追いすぎず、誠実さを残す
この「残す」という発想が、人間関係を円滑にし、心を守る鍵です。
八分目の生き方は、決して中途半端ではなく、
むしろ“長く続く成功と幸福”を育てる賢い生き方。
現代の忙しさの中でこそ、
菜根譚が伝える「控えめの美徳」を心に留めておきたいものです。
