感情に流されない人が強い――『菜根譚』に学ぶ「客観的に物事を見る力」
感情の渦中では、誰もが「正しく見えなくなる」
『菜根譚』のこの章は、人間の“感情の盲点”を鋭く突いています。
「激しい波が荒れ狂う海の中でも、舟に乗っている人はその恐ろしさに気づかないが、かえって陸で見ている人は、恐怖で震え上がっている。」
「また、酔っぱらった人が宴席で怒鳴り散らしていても、同席している人たちは案外と平気な顔をしているが、はたから見ている人は、苦々しく思っている。」
この比喩が示すのは、
**「物事の中にいる人ほど、冷静に判断できない」**という心理の真実です。
自分が当事者になると、感情が先に動き、理性が働かなくなる。
怒り、焦り、興奮――それらはすべて「視野を狭める要因」です。
当事者であるほど、見えなくなる現実
たとえば、仕事でトラブルが起きたとき。
自分が中心にいると、「なんとかしなきゃ」と必死になり、
全体の状況や他人の視点を見失ってしまうことがあります。
一方で、少し離れた立場の人ほど、冷静に状況を把握できる。
「いまは動かず待ったほうがいい」
「原因は焦りではなく、準備不足だ」――
客観的な目で見れば、正しい判断ができるのです。
菜根譚は、こうした人間の特性を見抜いたうえで、
「物事の渦中にいても、心はその場から切り離し、冷静な判断ができるようにしておかなければならない。」
と説いています。
つまり、身体は現場にあっても、心は一歩引いておけということです。
「心を切り離す」ための視点の持ち方
では、どうすれば感情に飲まれず、冷静さを保てるのでしょうか?
それは、「今の自分を第三者の視点で眺めること」です。
たとえば――
- 怒りを感じたとき:「私はいま怒っている」と言葉にしてみる。
- 焦っているとき:「焦っている自分」を心のスクリーンに映すように観察する。
- 落ち込んだとき:「落ち込んでいる」と認識し、感情を客観視する。
こうすることで、感情と自分を分離でき、
状況を冷静に見る「心の距離」が生まれます。
これは、現代でいうマインドフルネスにも通じる考え方です。
菜根譚が数百年前に説いたこの言葉は、まさに“東洋的心理学”の原点と言えるでしょう。
「渦中の自分」から抜け出す3つの方法
ここでは、菜根譚の教えを現代的に応用するための実践法を紹介します。
🌿 1. 一呼吸おいて「俯瞰のスイッチ」を入れる
感情が高ぶったら、まず深呼吸をひとつ。
呼吸は心をリセットし、思考を客観に戻す最も手軽な方法です。
☀️ 2. 5分だけ「その場を離れる」
議論や会議などで感情的になりそうなときは、
一時的にその場を離れてみましょう。
物理的な距離を取ることで、心理的な距離も自然に生まれます。
🌙 3. 第三者の目線で「自分を実況中継」する
「いま、自分は怒りで顔が赤くなっている」
「声が強くなっている」
と、あえて客観的に実況してみると、感情が鎮まります。
自分を観察できる人は、他人の感情にも優しくなれるのです。
感情を消すのではなく、“支配されない”ことが大切
菜根譚が伝えたいのは、「感情を持つな」ということではありません。
むしろ、感情そのものは人間らしさの証です。
しかし、それに支配されると視野が狭くなり、判断を誤る。
だからこそ、感情を観察し、距離を取る力が必要なのです。
たとえば、怒りの中には「わかってもらえない悲しさ」が、
焦りの中には「失敗したくない恐れ」が隠れています。
客観的に見ることで、感情の裏にある本音が見えるようになります。
冷静さとは、感情を消すことではなく、
感情の正体を見抜く知恵なのです。
おわりに:冷静さは、最大の知恵
『菜根譚』の「客観的に物事を見る」という章は、
時代を超えて、私たちの心に響くメッセージを伝えています。
人生は、常に「波の中」にあります。
怒りや不安、期待や焦り――その渦の中でこそ、
心を静かに保つ力が試されるのです。
冷静さとは、単なる性格の問題ではなく、
**意識して磨く“生きる技術”**です。
波に飲まれず、波を眺める人でありたい。
それが、菜根譚が示す“成熟した生き方”なのです。
💡まとめ
- 渦中にいる人ほど、正しく物事を見られない
- 「心をその場から切り離す」ことで冷静さを保てる
- 感情を消すのではなく、観察することが大切
- 冷静さは、最大の知恵であり、人生の技術である
