古典が「生きる知恵」になる──『不条理な世の中を、僕はこうして生きてきた』に学ぶ、迷いながら生きる勇気
現代人の悩みを、古典が救う
「この世界は、自分のためにはできていない。」
本書『不条理な世の中を、僕はこうして生きてきた』(宮下友彰)は、
現代社会の不条理と向き合いながら生きるための「古典の知恵」を紹介する一冊です。
著者は、順風満帆な学生時代を経て大手広告代理店に就職。
しかし、そこで待っていたのは理不尽で矛盾だらけの現実でした。
理想と現実のギャップに苦しみ、心が折れた著者を支えたのが、
学生時代に触れた古典文学と哲学の言葉でした。
本書では、古典の名作とともに、著者自身の人生体験が重ねられています。
「教養書」でも「自己啓発書」でもなく、
**“生きる実感のこもった古典エッセイ”**として、読む人の心に深く響く内容です。
『ゴリオ爺さん』──「世界は自分用にできていない」
社会の冷酷さに気づいた著者が最初に思い出したのが、
バルザックの『ゴリオ爺さん』です。
田舎からパリに出てきた青年ラスティニャックは、
都会の権力と虚栄に揉まれながらも、やがて現実を知ります。
彼の前に現れたのは、金に尽くした娘たちに裏切られた老人・ゴリオ。
誰からも見捨てられ死んでいく彼を見て、
ラスティニャックは社会の非情さを痛感します。
墓地で彼は叫ぶ――「今度はおれが相手だ!」
著者もまた、社会の理不尽に直面し、
「この世界は自分用にはできていない」と悟った瞬間がありました。
だが、彼は逃げずに決意します。
「人間性を保ちながら、非人間的な社会を生きる。」
それが、ラスティニャックと著者に共通する“第3の道”でした。
古典は単なる物語ではなく、人生の選択を導く指針になるのです。
『ヨブ記』──「不条理をそのまま受けとめる」
次に紹介されるのは、旧約聖書の『ヨブ記』。
敬虔な信徒ヨブが、悪魔の策略により財産・家族・健康のすべてを失う――
あまりに理不尽な物語です。
それでも神はヨブを助けず、ただ「お前には神の計画はわからない」と言う。
この話が象徴するのは、**「不条理は、不条理のままでよい」**ということ。
著者もまた、親友の病や人生の不運を経験し、
それらに意味を見出そうとして苦しみました。
しかし、最後にたどり着いたのは、
「意味を探すことをやめ、ただ受け入れる」という心の静けさ。
「世界は理不尽だ。
でも、理不尽の中にも人間らしさはある。」
この気づきが、彼の人生を再び前に進ませました。
カント『自律』──「自由とは、自分を律すること」
カントが言う「自由とは自律である」という思想も登場します。
著者は大阪に転勤後、「自由」を満喫していました。
金曜の夜は飲み歩き、土曜は昼過ぎまで寝る。
しかし、そんな生活の中で虚しさが残ったといいます。
あるとき、ふと気づいたのです。
「好き勝手に生きているのに、なぜ自由を感じないのか?」
それは、欲望に支配されていたから。
真の自由とは、欲に流されることではなく、自分のルールを守ること。
著者は「土曜の朝は無駄にしない」と決め、早朝に読書会を始めました。
結果、彼の人生は静かに、しかし確実に豊かになっていったのです。
「自分を律することが、自分を自由にする。」
カントの言葉が、現代にも生きていることを実感できるエピソードです。
ニーチェ『貴族と奴隷』──「ないなら、自分で創ればいい」
ニーチェの哲学から、著者が学んだのは「創造する勇気」。
ニーチェは言いました。
「人間には2種類いる。価値を創る者(貴族)と、与えられた価値に従う者(奴隷)。」
著者は独立を考えたとき、この言葉を胸に刻みます。
彼が選んだのは、“誰もやっていない仕事”を作ること。
それが「マジックを教える講師」という新しい職業でした。
当時、そんな職業は存在しなかった。
しかし、ニーチェの言葉どおり、
「ないなら、自分で創る」という覚悟で行動した結果、
副業が本業を超えるまでに成長。
やがて「古典教養アカデミー」を設立するまでに至りました。
古典の言葉は、現実を動かす力になるのです。
「古典教養」は、人生の羅針盤になる
本書の魅力は、古典を“人生の現場”で語っていること。
哲学書の難しい理論を並べるのではなく、
実際の経験と古典の知恵が交差する瞬間が描かれています。
著者は言います。
「古典教養は、あとからじわじわ効いてくる。
迷ったとき、必ず心の中で助けてくれる。」
本書で紹介されるのは、『ゴリオ爺さん』『ヨブ記』『カント』『ニーチェ』のほか、
『罪と罰』『ドン・キホーテ』『ハムレット』、
スピノザやヘーゲルの哲学など。
どれも、“現代に生きる自分”の問題として読めるように語られています。
まとめ:不条理な世の中を、まっすぐに生きるために
『不条理な世の中を、僕はこうして生きてきた』は、
古典を読むことの本当の価値を教えてくれる一冊です。
「古典を読むことは、過去の偉人と対話すること。
そして、自分自身の人生と向き合うこと。」
世界が理不尽でも、社会が冷たくても、
古典の言葉は、あなたの中に“灯”をともします。
