ストア派の哲人エピクテトスは、次のように述べています。
「不運とは何か? ただの意見だ。対立や争いや責任や非難や不敬や軽薄さも皆、意見にすぎない。」
驚くべき視点ですが、この言葉は私たちの心の揺れがどこから来るのかを鋭く突いています。
私たちは「世界そのもの」ではなく「意見」を見ている
天気がよいか悪いか。
誰かの言葉が無礼かどうか。
自分は成功しているか、失敗しているか。
これらはすべて「事実」ではなく「意見」です。
しかも、多くの場合、文化や信念、期待や無知によって色づけされています。
つまり、私たちは世界をそのまま見ているのではなく、自分の意見というフィルターをかけて見ているのです。
意見が心を乱す
だからこそ、私たちは頻繁に腹を立てたり落ち込んだりします。
- 誰かの言葉を「侮辱だ」と意見した瞬間に怒りが生まれる
- 出来事を「不運だ」と判断したとたんに悲しみが生まれる
- 成功を「自分にはない」と比較したとき嫉妬が芽生える
出来事そのものではなく、意見が心を乱しているのです。
意見を「切除」する
エピクテトスは、こうした余計な意見を取り除くよう説きました。
ギリシャ語で「エクコプテイン」――つまり「切除する」「排除する」という言葉で表現しています。
出来事に善悪や評価をつけるのではなく、ただそこにある事実として眺める。
すると、物事は驚くほどシンプルになります。
- 雨は「不運」ではなく、ただの雨である
- 他人の発言は「侮辱」ではなく、ただの言葉である
- 仕事での失敗は「破滅」ではなく、ひとつの出来事にすぎない
実践のステップ
- 意見に気づく
「これは不運だ」「あの人は失礼だ」と感じたら、それが意見であることを意識する。 - 事実に戻す
「ただ雨が降っている」「あの人があの言葉を言った」――事実だけを残す。 - 意見を切り離す
余計な評価を取り除き、出来事をニュートラルに見る。 - 心の平静を保つ
意見を切除できれば、感情に振り回されることが減り、落ち着いた心でいられる。
まとめ ― 世界はシンプル、複雑にしているのは自分
エピクテトスの教えが示すのは、不運や対立といった苦しみの多くは「意見」にすぎないということです。
出来事をシンプルに見れば、世界もまたシンプルに見えてきます。
「意見」を切り離すことで、私たちは心の平静を保ち、より自由に生きることができるのです。