人を伸ばす「助長の心」──幸田露伴『努力論』に学ぶ、人を育てる接し方
助長の心で人に接しよう
人と接するとき、私たちは知らず知らずのうちに「評価する側」になりがちです。
誰かの行動や考えを見て、「それは間違っている」「あの人はまだ未熟だ」と判断してしまう。
しかし、幸田露伴は『努力論』の中で、そんな態度を戒めます。
「少なくとも悪い考え方をして悪い行動をとる人でないかぎり、その人に対して『剋殺(こくさつ)』の態度で接してはいけない。人には『助長(じょちょう)』の心で接するべきだ。」
ここで露伴が使う「助長」とは、人の成長を助け、良い方向へ伸ばしていく心を意味します。
反対の「剋殺」は、相手を抑えつけ、可能性を摘み取る態度のこと。
露伴は、人との関わりにおいて「抑えるより、育てる心を持て」と教えているのです。
「助長」と「剋殺」――人を伸ばすか、潰すか
露伴が対比させる「助長」と「剋殺」は、人間関係の本質を鋭く突いています。
- 助長の心:相手の長所や努力を認め、成長を後押しする。
- 剋殺の心:相手の欠点を責め、意欲を削ぐ。
たとえば、部下や後輩、子どもが何かを始めようとするとき、私たちはつい
「そんなの無理だ」「やめておけ」と言ってしまいがちです。
それが相手のためになる場合もありますが、露伴はこう言います。
「もしそれがよくないこと、あるいは凶悪なことであるなら、当然、それはやめさせるべきだ。
しかし、そうでないなら、助長の心をもって後押ししてやろう。」
つまり、明らかに悪いことでなければ、応援してあげるべきなのです。
「否定」より「後押し」が人を成長させる
人が成長するためには、自ら挑戦し、失敗から学ぶことが欠かせません。
ところが、周囲が過保護になったり、否定的になったりすると、本人の成長の芽を摘んでしまいます。
露伴は、人に接するときに「助長の心」を持てと言いますが、それは単に“優しくしなさい”という意味ではありません。
むしろ、「相手の可能性を信じる覚悟を持ちなさい」という厳しくも温かい言葉です。
助長とは、
- 相手が試みようとしていることを応援する
- 失敗しても学びの糧にできるよう見守る
- 無理に方向を変えさせず、本人の意志を尊重する
このように、相手の中にある力を引き出す心なのです。
「助長の心」は信頼から生まれる
露伴が説く助長の本質は、「信頼」にあります。
相手の成長を助けるためには、「この人はきっと成長できる」という信頼を持たなければなりません。
人を助長できる人は、相手をコントロールしようとはしません。
むしろ、相手の可能性を信じ、自由を与える勇気を持っています。
反対に、剋殺の心は不安や支配欲から生まれます。
「自分の思い通りに動いてほしい」「間違ってほしくない」という気持ちが強くなるほど、他人を抑え込んでしまう。
しかし、露伴はそのような態度を“成長の妨げ”として否定します。
「人に助長の心で接すること、それは人を伸ばすと同時に、自分の心も豊かにすることだ。」
つまり、助長とは相手と自分の両方を育てる行為なのです。
助長の心を持つ3つの実践
露伴の言葉を現代に生かすためには、具体的な行動に落とし込むことが大切です。
ここでは「助長の心」を日常で実践するための3つのヒントを紹介します。
① 相手の意欲を否定しない
まず、「やってみたい」という気持ちを大切に扱うこと。
結果よりも“挑戦の意志”を尊重することで、相手の自信が育ちます。
② 失敗を責めず、学びとして認める
助長の心とは、失敗を許す心。
失敗の中に成長の種を見つけるよう導くことが、真の教育者の姿です。
③ 評価より、励ましの言葉をかける
「もっと頑張れ」より、「よく頑張っているね」という一言が、人を前向きにします。
人は評価よりも“信じてくれる存在”によって伸びるのです。
助長の心は、チームや社会を強くする
露伴の教えは、人間関係だけでなく、組織や社会にも当てはまります。
批判よりも支援、否定よりも励ましの文化が根づけば、人は自然と力を発揮します。
互いに助長し合う関係性こそ、健全なチームや社会の基盤です。
「助長の心で人に接する」とは、単に人を優しく扱うということではなく、
人の中の可能性を見抜き、それを信じて支える勇気を持つこと。
露伴が説いたこの心は、教育者、リーダー、親、すべての人に必要な“人を育てる哲学”です。
まとめ:人を伸ばす心が、自分を育てる
幸田露伴の「助長の心で人に接しよう」は、
「人を咎めるより、人を伸ばせ」
という、今も変わらぬ人間関係の真理を伝えています。
人を支え、励ますことで、自分の心も豊かになる。
人を信じることで、自分も信頼されるようになる。
露伴の言葉は、シンプルでありながら深い真理を含んでいます。
「助長の心は、人を育て、社会を育て、そして自分を育てる。」
その優しさと強さをもって、今日も誰かの成長を後押しできる人でありたいものです。
